はじめに
入試の「変化の波」にどう対処すべきか
<モリの目>(森上展安)
「大問一題」が今回のタカの目さんのテーマでこのタイプの入試を今後私立中学に押し寄せる「変化の波」と捉えるべきかという文脈です。
社会科の出題に詳しい早川明夫先生(文教大学)にうかがってみました。早川先生は文教大学に籍をおかれる一方、長く私立中学入試問題作成の現場におられたので適任者です。
早川先生によると、武蔵の社会の「大問一題」は少なくとも10年来の傾向だそうです。字数制限のない自由記述。ひいては『四谷大塚中学入試案内』の<入試平均点>のページをみると、昨年の社会の合格者平均と受験者平均の差は4.8点、一昨年は2.4点。
いずれも4科の中では最も差がない。理・社は60点満点なので、100点満点の算・国に比べれば小さくなりますが、それにしても合格者と不合格者に大きな差が出る問題とは言えないようです(今年の資料はまだ手元にはありません)。
ただ、そうはいっても地理、歴史、公民の様々な切り口をもった問題を作る、というのは早川先生曰く、「なかなか難しい」そうです。そこに練達の先生がおられないと各分野の問題を程よく散りばめることは難しく、高度な作問力と作問指導力が必要とのこと。その意味で武蔵以外でもなかなかお目にかからない問題だそうです。
ただ、こうした時事問題あるいは総合問題は社会科という社会そのものを対象とする教科にあってはふさわしい出題のあり方ですし、総合した記述式問題という出題形式は公立一貫校の適性検査と同じで手強そうです。
いわば本質的理解を求めている、という点でタカの目さんの言う「入試は第一回の授業」を地で行く武蔵らしい問題ですね。
その意味ではこれからこうした問題が増えていく可能性は本来なら高いと言いたいところです。ですが、残念ながら作問技術面のハードルが高い、という現実もあって、急速に拡大するとか、一般的になる、とかということは難しそうです。
それは武蔵の理科の「おみやげ問題」も同じで五感を働かせて答えさせる(手で操作して考えさせる)という、本質的理解を聞いているのです。この問題のネタを毎年実物で探してくることそれ自体が好きでなくてはやれないことです。逆にいえば教科が好きになれば自ずとそうした発想がわいてくるので、そのような問題を面白がって解くような学習法略がとれるとハードルが低くなります。