はじめに
WTI原油先物は3月9日、一時1バレル=30ドル割れへと急落。約4年ぶり安値をつけました。
3月6日に石油輸出国機構(OPEC)がロシアと追加減産協議で決裂し、サウジアラビアが増産姿勢に転じると報じられたことが主因です。新型コロナウイルスによる世界の原油需要の減少懸念もくすぶっています。
「経済の血液」ともいわれる原油の価格は、経済の動向も大きく左右します。この先、原油相場はどのように動くのでしょうか。
OPECプラスの減産協議が決裂
OPECとロシアなど非OPEC加盟国からなる「OPECプラス」は2017年1月以降、原油市場でのシェア争いをやめて、価格の下支えを目的とした協調減産を実施してきました。OPECプラスは2020年3月末まで、2018年10月を基準に日量170万バレル(B/D)の減産を実施。さらに、サウジアラビアは自主的に40万B/Dの減産も続けていました。
3月5日の臨時総会でOPECは150万バレルの追加減産案で合意。しかし、3月6日にロシアがこれを拒否したことで、2017年から続いた協調減産は3月末で終了する見通しとなっています。
サウジアラビアは、国営石油会社サウジアラムコが2019年12月に国内市場に上場。海外での新規株式公開(IPO)を成功させるためには、目先の価格維持が必要とされていました。
一方、ロシアでは、減産によるシェア低下に石油会社が不満を高めていました。予算の前提条件である原油価格が42ドル台であることなどから、減産拡大への切迫感がその時点で乏しかった点が、交渉決裂の背景にあったとみられています。
協調減産からシェア争いの戦略へ転換
原油市場では、OPECプラスによる協調減産が継続すると想定していたため、今回の決裂は想定外の出来事となりました。
今後、サウジアラビアは自主的な減産も取り止め、4月から1,000万B/D超へと増産する見通しが報じられています。2017年以降続いてきた「OPECプラスの協調減産による価格維持政策」から政策転換され、再び「原油安を放置し市場シェアを重視する戦略」がとられることになります。
世界生産の1~3位を占める米国、ロシア、サウジアラビアがシェア拡大を目的とした原油の増産体制に入るとともに、価格引き下げ競争が激化する可能性が高まっています。
今後、世界の原油市場で価格競争が激化した場合、圧倒的に生産コストが低いサウジアラビアが生き残る可能性は高いと思われます。一方、米国のシェール企業の損益分岐点となる原油価格は60ドル程度と見られていることから、高コスト生産企業は市場から撤退せざるを得ない状況に陥る可能性が高まってくるでしょう。