はじめに
最近、「株や仮想通貨の情報商材を使えば〇〇円儲かる」とうたい、マルチまがいな手口を使って勧誘する危険な“ビジネス”の被害に遭う大学生が増えています。多くの被害者を見てきた学生の生々しい体験談から迫りました。
数年ぶりに友人からの連絡
「今度飯行こう」。東京都内の私立大学3年生、山田正さん(仮名)に2020年初め、高校時代の同級生X君からLINEで連絡が来ました。卒業以来会っておらず、さほど親密でもなかった友人の誘い。せっかくなので別の友人も誘い、安価なチェーン居酒屋でX君と飲むことにしました。
店で開口一番、X君が発したのは「最近どうよ」。同席したもう1人の友人とともに「僕は就活」「バイトだよ」と答えX君に聞き返したところ、何だかへんてこな近況報告が返ってきました。「俺は黒字化したから」。
「投資のようなことをやっている」と話し始めるX君。「日経225(日経平均株価)を予測するツール」などとうたう情報商材を扱うAという団体に入ったというのです。彼の説明によると、USBに入った“ツール”と称するものを1本50万円程度で所属員に販売させ、1人に売ると“仲介料”として2万円が勧誘者の懐に入る仕組みといいます。X君の誘いは、いわゆる情報商材をマルチ系の手法で売る「ビジネス」の一種でした。
X君は「俺は(仕事などで)縛られるのが嫌だから」などと今後の日本の雇用不安について説明しつつ、このAという団体について「投資のファンダメンタルでなく、テクニカルについての分析をセミナーですごく教えてくれる」「セミナーに行くことで、学校や本で学べないことを知ることができる」などと、その魅力についてカタカナ語交じりで山田さんに対して語りました。
実は山田さん、冒頭のX君のちょっと不自然な「最近どうよ」を聞いた時点で、「これは何かのビジネスの勧誘だ」とすぐ目星を付けていました。これまで何度も同じように大学の知人からの勧誘を聞いたことがあり、時には主催団体のセミナーに潜入したこともあります。Twitterで「投資について興味がある」という趣旨の書き込みをよくするため、それを見た勧誘者が寄ってくるのだといいます。
今回のX君の勧誘も、山田さんが今まで見聞きしてきた“手口”とほぼ一緒のものでした。社会への不安を語りつつ、「学校や本が教えてくれないことをセミナーで勉強できる」などと言って商材を使った儲け話に誘うといったパターンです。
すでに3人の友人を説得中
勧誘をしてきたX君自身、このツールを2019年末に1本購入したそうです。「売り上げに対して、2万円の仲介料は安すぎでは?」などと訝しがる山田さんに対し、X君は「他の報酬体系もある」「将来やりたいことはないが、お金を稼げる分には最高だろう」と特に疑問に思っているようではない様子でした。
「投資のスキルが身に付くと、将来困らない。“テクニカル分析”で(株の動きが)読めるようになるから」と、居酒屋でなおも熱弁をふるうX君。ただ、「投資について今勉強してる」と話す彼に、実際に何か専門書を読んだかを聞くと、数年前に自己啓発本を1冊読んだきり。趣味で実際に投資を行う山田さんの目からしても、株についての具体的な知識や経験があるようには見えませんでした。
ちなみに、X君に「なぜそんなにお金が欲しいの?」と聞くと、「一人暮らしを考えてる。その方が楽だから」とのこと。旅行などにもお金を自由に使いたいと、夢を楽しそうに語っていました。無邪気にも見えるX君ですが、既にこの時点で他にも3人ほどの高校時代の友人を誘い、具体的に購入に向けて説得を進めている最中だったといいます。
山田さんは「興味あったら聞きに来ない?」というX君の勧誘を、同席した友人ともどもきっぱり断りました。ただ、こうした知識のない大学生同士による怪しい情報商材やマルチ系などのビジネス勧誘は、近年、悪質化の一途をたどっているようです。