はじめに

都市封鎖が与える経済インパクトは

ニューヨーク州で「都市封鎖」と言える、経済活動の制限が起きるのは戦後ほぼ初めての大変な出来事です。同様の措置が米国の多くの都市部で行われる可能性があります。過去の経験則が当てはまらないので、都市封鎖のインパクトを定量的に測るのはかなり困難です。

ある程度前提を置く必要があり、また都市封鎖がどのタイミングで解除されるかは新型肺炎の感染状況に大きく依存するなど不確定要素がありますが、一定の前提をおいて経済インパクトの大きさを以下で推量を試みます。

都市封鎖により経済活動停止の影響を直接受けるのは、主に不要不急のサービス消費です。外食、旅行(ホテル、カジノなど)、スポーツ観戦、レジャー施設などが該当し、これらの産業の活動が当面、相当程度止まるとみられます。

米国においてこれらのサービス消費産業は経済全体の約7%を占めます。これらの産業で、経済活動がどの程度落ちているかを把握するのは困難ですが、たとえば、ニューヨーク州の地下鉄の乗車数は60〜80%もの急激な落ち込みがみられています。これを目安に、サービス消費セクターの経済活動が70%程度停止されるとします。

すると、単純計算でGDP5%規模の経済活動が、個人消費を中心に蒸発することになり、都市閉鎖によって経済活動の停止・大収縮が避けられないことが示されます。

戦後最大規模の不況が再び到来か

一方、こうした経済活動停止がずっと続くわけではなく、また経済活動の収縮を補うために、米国では緊急対応として、一人1,200ドルの小切手給付、休業者への所得補償などの財政政策の準備が進んでいます。また、新型肺炎の感染状況によって、都市封鎖を続ける自治体首脳など政府の感染拡大対策も変わります。

ただ、仮に短期間であっても、GDPの5%の規模の米国における経済活動停止が起こるインパクトは極めて大きいと言えます。このショックが4月から本格化して、夏場にかけて徐々に都市閉鎖の経済活動制限が和らぐと仮定しても、4〜6月 米国GDPの成長率は前期比年率ベースで20%以上減少する可能性が高い、と筆者は現時点で考えています。

この結果、2020年の後半にかけて米国経済が正常化し、失われた消費活動がある程度戻っても、2020年の米国の経済成長率は約-3%縮小することになります。これは、リーマンショックがあった後の2009年にみられた米国経済の大収縮とほぼ同じで、戦後最大規模の不況が再び到来することを意味します。

3月以降の急ピッチな株式市場の下落など金融市場の激変は、リーマンショック再来を警戒した動きでした。2008年にリーマンショックを引き起こした銀行システムの機能不全が、今回は当局の対応で防ぐことができる、と筆者は見込んでいます。ただ、今回は新型肺炎で経済システム全体が麻痺するといった、2008年とは異なる経路で、世界経済の大収縮が起こると筆者は予想しています。

リーマンショックが起きた時に、米国の株式市場は高値から50%以上下落し2009年3月に下げ止まりました。目先は、米国の株式市場は乱高下が続くと思われますが、2020年内にリーマンショック時と同程度の株価下落が起きる可能性が高い、と考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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