はじめに

4月7日に政府により緊急事態宣言が発表され、今後東京などで外出自粛、休業要請などが行われ、すでに景気後退局面にある日本経済がさらに停滞するのは避けられないとみられます。

一方、安倍政権は、同日に緊急経済対策を発表しました。今後起きる経済の落ち込みに対して十分な政策対応が行われるか、両者のバランスをどう考えるかが重要でしょう。


緊急経済対策の中身を見ると…

緊急経済対策の事業規模は総額108兆円と、リーマンショック後の約2倍かつGDP の約20%に相当するため、一見すると、とても大規模な経済対策に見えます。ただ、この対策がどの程度経済成長率を高めるか、内容を吟味する必要があります。

経済成長率を高める対応は、(1)給付金や減税など政府から家計や企業に対して税金を戻す、(2)公的部門が消費や投資を増やす、の2つに大別され、これらの金額が経済対策のいわゆる「真水」になります。

(1)について、まず家計に対して、住民税非課税世帯など収入が大きく減少した世帯に総額約4兆円の給付金の支給が行われます。

そして、休業などで売り上げが落ち込んだ中小企業に対しては最大200万円の給付金が支給され、これが総額約2兆円。つまり約6兆円(GDP対比約1%)の給付金が、経済の落ち込みを和らげる対応策として支給されます。

(2)については、新型コロナウイルス対応として人工呼吸器、マスク配布、ワクチン開発、などに約2兆円の政府歳出増加が決まりました。これら以外の歳出の詳細は不明ですが、合計約11兆円の政府歳出が増える予算措置となっています。

つまり、約17兆円の追加的な政府歳出が、経済の落ち込みを対応する分と位置づけられます。これは、108兆円の事業規模のごく一部に過ぎません。

太宗を占める事業規模約90兆円相当分は、経済成長率を押し上げる効果はほとんど期待できません。この中には、以前決まった補正予算分が計上された分があります。つまり、経済対策を2重で計上しただけで、事業規模の数字を大きくするだけの対応と言えます。

また、政府系金融機関による民間への融資拡大枠が計上されています。もちろん、経済の落ち込みで資金繰りが厳しくなる企業に対して、公的金融機関がバックアップすることは必要な政策です。

ただ、公的金融機関などの融資が、実際にどの程度増えるのかは経済状況に依存します。融資拡大によって企業が設備投資や雇用を増やさなければ、経済成長率を高めることにはなりません。

108兆円という事業規模は極めて大きいですが、中身をみるとリーマンショック後に行われた時の経済対策よりも若干規模が大きい程度、という評価になるでしょう。今回の緊急経済対策は、大規模な政策を発動する政治的アナウンスメント、としての意味合いが大きいのかもしれません。

日本経済に与えるダメージの規模

一方、大都市での非常事態宣言やこれまでの経済活動自粛などで、どの程度日本経済はダメージを受けるでしょうか。直接悪影響を受けるのは外食、旅行など不要不急のサービス消費を提供する産業です。そして、都市部では外出が自粛されるため、鉄道、バス、タクシーなどの運輸業なども甚大な影響を受けるでしょう。

上記の産業が経済全体のGDPの約2割です。これらの企業において、3月以降の自粛と今回の緊急事態宣言によって、各産業での経済活動(ほぼ売上)の減少率は、約50%と大まかに試算されます。

なお、全ての産業で50%経済活動が減るのではなく、業種によって想定する減少率は異なります。たとえば旅行、居酒屋などでは8割以上、鉄道では約5割の経済活動減少をそれぞれ想定しています。

GDPの約2割を占める産業で、約半分の経済活動の萎縮となれば、GDP の約10%に相当する大きな経済ショックになります。これは、相当深刻な経済ショックで、2008年のリーマンショック時よりも大きな経済活動の落ち込みが起きつつあると位置づけられます。

GDPの10%相当規模の落ち込みに対して、緊急経済対策によって真水の経済対策は約17兆円でGDP対比で3%です。このため、今回の緊急経済対策はその規模が圧倒的に不十分と筆者は考えています。

<写真:代表撮影/ロイター/アフロ>

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