はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

私の父は現在75歳、先日帰省した際に相続の話になりました。私は二人兄弟ですが、二人とも東京に出てきており、戻る予定はありません。実家を処分したあとの資産は、500~600万円も残らないかと思っているのですが、今のうちに契約や遺言作成などを済ませておきたいようです。


さほど資産が残らないとなると、金融機関などが行っている遺言作成の費用ももったいなく感じています。ただ、自分で書いて判子を押して意味があるのかわからず……。変な緊張をもたらさないためにも、どうすればよいのかアドバイスをいただけますでしょうか。
(40代前半 既婚・子供1人 男性)


野瀬: 地方の旧家がどろどろの相続争いに端を発し殺人事件へ……なんていうのはサスペンスの定番です。

「うちはそんなに財産がないから大丈夫。相続は揉めないに違いない」と思うかもしれませんが、私の経験上、相続で揉める揉めないに金額は関係ありません。

巨額の相続でも揉めない場合はあるし、数百万の相続であっても兄弟が大ゲンカになるケースがあります。

結局相続で揉める原因はなにかというと「もらえると皮算用していた金額と実際の金額のギャップが大きかった」ということです。これに金額の多寡は一切関係がありません。

揉める原因は「介護」と「法事」

相談者の方の場合、資産は500万円程度とおうかがいしました。「実家は処分」とありますので、この500万円は単純に預金であると考えると、まず「土地の分配や処分」で揉めることはないと考えられます。

では、こういった場合に懸念されることはなにか? それは「介護」と「法事」の問題です。

相談内容から察するに、お父さまはまだお元気なようですが、問題は今後、介護が必要になった場合です。

相続でよく揉めるのが、「私のほうが熱心に親の介護をしたのに、どうして取り分がこれだけなのか」というケースです。

現在は、「500万円を兄弟で半分に分ければいい」と単純に思っているかもしれませんが、今後お父様の介護が必要になった場合、話はややこしくなります。

こういったケースに備えて介護の分担についても、ご兄弟とよく話し合っておく必要があるでしょう。

また「法事」についても同様です。おそらくお墓の管理や法事については今後長男の方が取り仕切ると思うのですが、お墓の管理や法事はタダではなく、毎年お金がかかります。お墓が地方にあるならば交通費もかかるでしょう。それが今後、何十年も続くのです。

これらを考えますと、500万円程度の相続であれば、兄弟で話し合って、お墓や法事の管理をする長男に400万円、次男に100万円程度が一番収まりがよい気がします。あとは介護の負担を話し合い、調整を加えるとよいでしょう。

遺言作成は必要か?

遺言の作成には2種類があります。

(1)自分で書くケース
(2)公証人の認証を得るケース

1の自分で書くケースは簡単です。好きな紙に好きな時に書き、自署と押印があれば完成です。自署ですので自分で書く必要があります。この点は気を付けてください。

一方、2の場合は証人が必要となり、手数料などもかかります。しかし、法的な効力が強いのは当然ですが2です。

ただし相談者の方の場合、家族状況や金額を考えると、前述の介護や法事の問題をクリアしておけば、相続時において揉めることはそれほどないと思います。「変な緊張をもたらさないように」という言葉から察するに兄弟仲も悪くはないのだと推測します。

こういった場合にはコスト面を考えても、1の自分で作る遺言状に、お父様ご自身の「思い」を書いておくとよいでしょう。「兄弟仲良く」「年に1度はお墓に来てほしい」といったような、数字ではない思いを書くことをおすすめします。

こういった思いを残しておくと、意外と兄弟間の争いが起こりにくい傾向にあります。逆に、「250万円ずつ」という明確な数字を書いてしまった場合、介護や法事の負担をたくさんしたほうが不満を持つケースがあるのです。

結論としては、介護と法事について兄弟で今から話し合い、その負担に応じて取り分を決めておくこと。それらをクリアできたら、お父さまは簡単に自分の思いを子供達に残すこと、というのが一番無難な落としどころかと思います。

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