はじめに

市場の反応は、俗にいう「リスクオン」?

米5月雇用統計を受けて、まずは米国債利回りと米株式先物市場が大きく反応しました。
米10年債利回りは0.867%水準から一気に0.9555%まで上昇し、米S&P500先物は3135ポイント水準から3179ポイント水準まで上昇しています。AIによる「早い者勝ちトレード」の様相です。

このところ、蚊帳の外のような存在であったドル円も、109円20銭水準から109円65〜70銭水準まで上昇しました。NY株式市場がオープンするとさらに上値を追う展開となり、デイリー高値の109円85銭をつけています(なお、高値安値はブルームバーグのデータによります)。

他市場の値動きに比べてドル円の上昇が緩慢なのは、1ドル110円という、日本人実需が大好きな5の倍数水準が近づき、また2020年度に入ってもっとも円安の水準になり、日本の輸出企業のドル円の売り(オーダー)も気になっているからではないかと、筆者は考えています。

また、このところの円安は、「リスクオフ」観測に便乗して作られた、リスクテイクの「ドル売り/円買い」ポジションの「踏み(ショートカバー)」の要素が濃く、その「踏み」が一巡してしまったのではないかとも考えています。

懸念は抗議活動による「第2波」

前述したように、投資家の目線は、「過去の悪い経済指標」ではなく「経済底打ちのシグナル」に移っていると思われます。市場が語る「リスクオフ」への反応は小さくなっている一方で、先行きに期待ができるニュース・指標・政策へのポジティブ反応は大きくなっています。

4月5月の最大の懸念材料となった原油価格の暴落(懸念)は、最近の原油価格の落ち着きで、すっかり材料視されなくなっています。「先行き不透明(uncertainty)」の一つが払しょくされています。

筆者が今懸念している材料は、黒人男性ジョージ・フロイドさん死亡事件を巡る全米での抗議活動(デモ、暴動、略奪)により、新型コロナウイルス感染拡大の第2波がくるのではないか、ということです。

ただ、新型コロナウイルス感染拡大の第2波に警戒しつつも、引き続き、目先のリスクオフは、その先のリスクオンに向けての投資のタイミングではないかと考えています。2020年7〜9月期のドル円は「1ドル113円〜114円方向」との予想を維持しています。

筆者は株式担当ではありませんが、日米株式市場を見ると、やや先走りの感も否めませんので、一本調子の「リスクオン相場」は予想していません。持続可能なゆっくりとした米経済回復を想定しています。したがって、ゆっくりとしたドル高円安を想定しています。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

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