はじめに
冷静になって
数日後、帰宅してから彼女はいろいろ考えたそうです。自分もひとり暮らしなのに、彼は私のところには一度も来なかった。夜中のタクシー代も頼まれて買っていったものも、一度も払ってもらっていない。
「別に請求する気はなかったけど、彼関連のレシートや領収書をひとつの封筒に入れておいたんですよ。最初の1年は奢ったり奢られたりだったんですが、その後はレシートがやたらと増えている。それを全部、計算してみたら1年弱で90万円近くなっていました。虎の子の貯金もほとんどなくなっていた。彼の家の往復のタクシー代だけで1万円になっちゃうし。彼のほうがずっと高給とりなのに。しかも彼、親に買ってもらったマンションに住んでいるから家賃もいらないんですよね」
どうして自分だけがこんなに身も心も削ってしまったのか、と彼女は笑いがこみ上げてきたそうです。
「しょうがない、ここですべてチャラにしてまた出直そうと思ったら、すっきりしました」
そのとき、チャイムの音がしました。彼がやってきたのです。彼女は玄関ドアを開けませんでした。
「私がいるのはわかったんでしょう。彼はドアの向こうで、『ハルコと連絡がとれなくなって、オレにとっていちばん大事なのはハルコだったってわかったんだ、これからはちゃんと恋人としてつきあおう。彼女とは別れてきた』って。本当なら喜ぶところなんでしょうけど、そのときはすでに気持ちが冷めていた。彼がいちばんだって言ってくれていると自分を奮い立たせようとしましたが、それでも無理だった」
帰っていく彼の姿を、彼女は窓から見送りました。
「遅かったよ、ごめんねってメッセージを送って、彼の連絡先を削除、全部ブロックしました」
セカンドでもいいと始まった恋ですが、セカンドだからこそ彼の言いなりになってしまったと彼女は感じました。次の恋は、きちんと向き合って、気持ちもお金も対等な関係を作っていきたいと思っているそうです。