はじめに
インフラ投資の有効性は?
トランプ大統領による1兆ドルのインフラ投資計画については、一部でしか報道されておらず真偽は定かではではありません。これが正しいとすれば、米国が追加的な財政政策によって景気回復や株高をもたらす可能性があります。
ただ、インフラ投資はその性格上、即効性が期待できない政策メニューです。2020年後半に政策効果が息切れするリスクがある米国経済に対しては望ましいメニューではないでしょう。トランプ大統領は給与税減税を議会に要請していましたが、これに反対する民主党との妥協を図るために、インフラ投資をアピールしたのかもしれません。
コロナ禍後に経済成長率を高める財政政策としては、減税政策が最も有効であると筆者は考えています。このため、米国におけるインフラ投資拡充を過度に評価すべきではなく、むしろインフラ投資拡充の財源確保として、将来の法人税、所得税の増税が行われるリスクが懸念されます。
また、インフラ投資拡充は長期的な財政プランの意味合いが大きいとみています。それよりも、2020年夏場以降に第4弾の追加財政政策がスムーズに実現するかが、株式市場に取ってはより重要でしょう。
金融市場では、景気回復をサポートするために、今後追加で1兆ドル規模の財政政策が想定されていると見られます。ただ、これが本当に短期間で実現するのか、筆者はやや警戒しています。
大統領選挙まであと4ヵ月あまりとなっていますが、トランプ政権と民主党の政治的な対立が強まる中で、議会において追加財政政策に関する協議が進まないリスクがあります。民主党はすでに独自の3兆ドル規模の追加財政政策を打ち出していますが、この案と給与減税などを検討するとしているトランプ政権との違いは大きいです。
米国では、大規模な財政政策が4月早々から実現しており、これが家計所得を大きく支えています。7~9月期以降に追加財政政策が実現しなければ、一時給付金そして失業保険給付金上乗せなどがなくなるため、筆者が警戒している「財政の崖」が顕在化し、2020年後半の米国経済復調の大きな足かせになります。
トランプ政権が繰り出した金融財政政策は、経済活動の早期回復期待を高め、そして資産インフレの萌芽をもたらしました。
ただ、(1)コロナウイルス感染拡大(2)追加財政政策への不確実性、という米国政治に起因するリスクが、好調だった米国の株式市場の景色を変える可能性があります。米国株市場が最高値更新を続けるには、双方のリスク要因が解消することが必要と考えています。
<文:シニアエコノミスト 村上尚己>