はじめに

ドラマチックな名車の再生産プラン

その中に、すでに買い手が付いていた残り9台のXKSSが含まれていたわけです。当然、その時に予約した9人の元にはXKSSは届いていないわけです。これは明確になっていないと思いますが、この車両が消失した時点で、売買の契約は白紙に戻っていると思われます。本来ならば、幻の9台、という伝説のままでXKSSのお話は終了となるはずでした。

ところが2016年のことになりますが、ジャガーカーズはいきなり1957年当時のXKSSを、オリジナルスペックのまま手作りで再生産すると発表したのです。その台数は9台。つまり火事で生産することが叶わなかった9台を再現生産するということなのです。そして手掛けるのはジャガー・クラシックのエンジニアリング・チームであり、すべて手作業で仕上げられることになったのです。記憶の片隅にしかなかった伝説の名車の復活、再生産するということ。それも、現在あるクルマをベースにしたり、現存するXKSSをレストアしたりということではありません。最初から部品を作り、再現するのです。

復活モデルはエレガントなスタイルのスーパースポーツの新車として蘇った

このニュースに世界のスポーツカー好きというか、クルマ好き達は少々興奮しました。何よりも、世に出ることが出来なかった9台をもう一度作ろうという、ジャガーの自動車メーカーとして想いにロマンを感じたわけです。これがもし、レプリカとして作り続けますというのでは、伝説も少しばかり色褪せてしまい、ほとんど魅力のない話になってしまうわけです。

さらにこのクルマは、先にも言いましたが、一からすべて手作りするのです。エンジンもボディもサスペンションもボディの骨格となるシャシもシートもウインドスクリーンも、すべて一から設計図を起こして、当時と同じように手作業によって1台1台を作り上げていきます。

実はこれほどのクルマでありながら当時の資料があまり多く残っておらず、生産の手順から塗装の仕方やボディの組み付けなど、ほとんどを手探りの状況で行いました。1台目の再現モデルはエンジンだけでも3週間、全体を完成させるには7週間かかっていました。1957年当時、DタイプからXKSSへと変更するために要した時間はわずか3日ということですから、この再現計画がどれほど大変な事業なのかが理解できると思います。

新車として蘇った走りの性能は現在でも一級品

レポートによれば、現存している設計図は何度かのコピーを経ているため数字が読み取れない部分があったり、最新のスキャニング技術などを駆使して現車を計測しても再現不能の箇所があったりと、その苦労は想像を絶するものでした。それを100社あまりにわたる会社が、それぞれの得意分野で全力を尽くし、出来上がった各部品をジャガーの工場で組み合わせながら、手作業で再現していくのです。

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