はじめに

スーパーカーには伝説が必要?

一台一台を丁寧に作り上げていくわけですから、ライン生産のようなことは出来ません。1台目の生産を終えようとしているときにようやく2台目の生産が始まるという具合に、何台もの作業を同時進行するようなことはなかったと言います。そのために最終の9台目を送り出すまでには約1年の月日が必要だったそうです。現代のテクノロジーによる再現で、あまりに綺麗に仕上がったため“新しくありながらも、ビンテージの味わいを出してくれ”などというリクエストがあったと聞きます。

アメリカで行われた発表。世界のクルマ好きの注目を集めました

このような苦労の末に完成したXKSSは、アメリカのロサンゼルスにあるピーターセン自動車博物館で初披露されたのです。その手作業による素晴らしい仕上がりに、誰もが感嘆のため息が漏れたそうです。世界限定、わずか9台。その価格は100万ポンドと言われましたから約1億3千万円。オリジナルの価格に比べれば、ずいぶんとリーズナブルです。現在では1億円超えのクルマと言ってもたまに見かけますから、確かにそれほど珍しいものではありません。

あのトヨタ2000GTでも、極上の個体ではこれと同じくらいプライスタグが下がっているものはけっこうあります。それでも、多くの伝説に包まれた再生産のXKSSだけに許された歴史的価値は、別の意味で大きいと思います。

フラットのウッドステアリングに丸型アナログメーターなど、美術工芸品とも言える美しさ

もちろん、この価格であっても、生産段階で9台すべては売り切れていたそうです。有名な映画俳優が購入したとか、色々と話は賑やかでしたが、ジャガーは誰の元に9台が納車されたか、あるいは1957年当時の9人にわたったのかは、極秘情報として一切明かしてはいません。

現在、オリジナルのXKSSが、もし市場に出れば50億円はくだらないともいわれます。そして4年前の再生産モデルは10億円以上とも。どちらにしろ、もはやプライスレスと言えるレベルかもしれません。本物のスーパーカーというのは、やはり、クルマとしての性能だけでなく、語り継がれる伝説を持っていることなのかもしれないと、思いを新たにしました。そしてこの日、我が家の狭いガレージで窮屈そうに夜を過ごしているランボルギーニ・ウラカンEVOの2千600万円が、ずいぶんと可愛らしく感じた夜でした。

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