はじめに
文部科学省は16日、現行の大学入試センター試験に代わって2020年度から実施される「大学入学共通テスト(仮称)」の原案を公表、独立行政法人大学入試センターのサイトでは「記述式問題のモデル問題」が公開されました。
たとえば、国語の試験では「行政が発行した架空の広報資料や『駐車場使用契約書』に書かれている内容を読解・解答する」など、実社会とのかかわりが深い文章を題材にすることも検討されているようです。
「大学入学共通テスト(仮称)」の記述式モデル問題(大学入試センターの公表資料より)
モデル案ではこうした出題のねらいを「法律知識を問うのではなく、論理が明確で実社会とかかわりの深い文書を通じて、内容を読解し、自分の考えを論理的に表現する力を問う」としています。
ですが、このような文書は独特の表現が多く、慣れていないと社会人でも読み解きづらいものです。そこで、契約書を例に「難解な文書を読み解くコツ」を見てみましょう。
あの難解で独特の書き方は何を表しているのか
契約書とは「当事者間でこういうことが起きたら○○する」「△△したいときはこのようにする」などの「約束ごと」を文書化したものなので、あいまいな書き方で多様な解釈ができるようでは意味がありません。そのため「明快かつ論理的な文にする」ことを最優先として、多少難解な言い回しや厳密な表現が用いられています。
甲や乙って何? なぜ置き換える必要があるの?
どの契約書でも最初に「~(以下、甲とする)」などと記されています。これは、いちいち正式な名称を書くのは面倒だから甲や乙といった表記に置き換えているだけです。なので、別に「ABC…」で置き換えても構わないのですが、慣例として古代中国や日本の陰陽五行で使われてきた十干「(甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸)」が主に用いられています。
権利と義務の表記
契約書では「このような場合には、甲は○○することができる」「次のような場合、乙は◇◇しなければならない」という書き方がよく見られます。これは、それぞれ権利と義務について規定したものです。
後者の「しなければならない」という書き方は義務を示すものとしてわかりやすいのですが、前者の権利を示す書き方はどういうことなのか、具体的にみてみましょう
【例文】
第一条
太郎は次郎に対し金500円を貸与する。次郎は2011年12月31日を期限としてこれを返済する。第二条
太郎は、次郎の側に合理的理由があると認めるときは、返済の期限を延期することができる。
仮に、次郎が2011年12月31日になっても太郎から借りていた500円を返したくないと思い、「第二条によると『期限を延期することができる』んだから、まだ返さないよ!」と言い張ったとしましょう。次郎は正しいでしょうか?
例文の第二条は、 太郎の権利 を規定したものです。 太郎が「返済の期限を延期することができる」という条文は、「太郎は返済の期限を延期しないこともできる」ことを意味します。 つまり、期限を延期するかどうかは 太郎が 一方的に決めてよいことなのです。
したがって、次郎が勝手に「まだ返さない」と決めることはできません。もちろん、太郎が「まだ返さなくていいよ」と言ってくれれば話は別です。
『読解力の基本』速越陽介著 P.154-155より一部編集のうえ引用