はじめに

一見複雑に見える例外・二重否定

実社会では、どのような約束事を決めても必ず例外というものがでてきます。

当然契約書でも、権利や義務を規定するにあたり、例外についても厳密に書いておかなければなりません。なかには、二重否定の書き方をつかって「例外のなかからさらにまた例外を規定している」など、一見わかりづらい書き方になっている場合もあります。

具体例で見てみましょう。

【例文】
第3条
1 当会社は、次の(1)から(12)までのいずれかに該当する事由によって生じた傷害または発病した疾病に対しては、保険金を支払いません。


(中略)


(9)戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変。ただし、テロ行為(注5)を除きます。


(中略)


(注5)テロ行為
政治的、社会的もしくは宗教・思想的な主義・主張を有する団体・個人またはこれと連帯するものがその主義・主張に関して行う暴力的行動をいいます。


『読解力の基本』速越陽介著 P.164より一部編集のうえ引用

この条項は、保険会社(=サービスの提供側)が「保険金を支払う(=サービスを提供する)義務を負わないパターン」を書いた「免責事項」と呼ばれるものです。通常、保険会社は「契約者が事故や病気にあったときに保険金を支払う」というサービスを提供しているため、このような免責事項は「支払い条件の例外」を規定していると言えます。

ここで(9)を見てください。この第3条の1は「支払わないケース」について規定しているので、「戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変」といった理由で契約者がケガをした場合は、保険金を支払わないとしています。

しかし、その直後に「ただし、テロ行為(注5)を除きます」と書かれており、その下の注釈でテロ行為とはどういうものを指すのかを規定しています。この場合、「支払わない」というケースからさらに例外として除かれているので、仮にテロ行為によってケガをした場合は保険金が支払われるということになります。

ついでに、この文面についてもう少し考えてみましょう。「革命や内乱による被害に対しては保険金が支払われないが、テロ行為によるときは支払われる」とありますが、現実的に考えると、革命や内乱も一定の政治的・社会的信条のもとに行なわれている行為なので、テロ行為との境界は非常にあいまいです。

それらの違いを定め、保険金支払いの判断を下すのは保険会社です。ここでもし「保険金を支払わない」という結論になったら、契約者と保険会社の間で利害の衝突が生まれます。実際、保険に限らずとも契約書の文面の解釈をめぐって裁判になることも珍しくありません。

こうしたことを防ぐには、契約締結時に例外(ときには例外の例外)を把握したり、不明な点についてしっかり確認することが必要です。そのためにも、契約書よく読む習慣をつけることが重要だといえます。

読解力の基本 速越陽介 著


知らないと恥をかく日本語の基礎知識や文章読解の裏技とともに、ビジネス関連文書や報道の文章、マニュアルや専門書・論文を読みこなす「技術」を解説。また、知っておくといっそう楽しめる小説の読み方や難解な哲学書を読みこなすノウハウも紹介します。

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