はじめに

所得補填はいつまで続く?

冒頭で述べたように、COVID19感染者拡大によって、消費行動自粛や州政府による経済活動の再制限によって、6月半ばから米国経済の復調が止まっています。公衆衛生政策の失敗によって、金融市場で溢れている流動性が経済活動に波及するメカニズムが遮断されつつあります。

更に金融財政政策に関しては、4月早々に発動された大規模な財政政策による効果が、秋口にかけて剥落する可能性が高まっています。一時的な現金給付と失業保険拡充は、6月までに既に約5000億ドル使用され、これは年間の家計所得の約3%に相当すると筆者は試算しています。

これに加えて企業への融資による雇用給与の補填(PPP=Paycheck Protection Program)が5000億ドル規模で実現しており、これらの所得補償で都市封鎖のショックがかなり緩和されました。

ただ、失業給付の上乗せが7月に終了しますが、それに代わる新たな所得補償策について、民主党と共和党の意見の隔たりは大きい状況です。一部共和党議員は復職した従業員に対する所得補填政策を提唱しており、これだけであれば家計への所得補償は1000億ドル規模に止まり、4−6月対比で所得補償は大きく低下する可能性があります。

企業融資は伸び悩み

家計所得補償に加えて、先述した企業融資プログラム(PPP)も重要で、これを利用したことで銀行の企業向け融資は5月に大きく伸びましたが、6月からは制度見直しなどで銀行融資の伸びが鈍っています。PPPの政策効果は減衰しており、今後追加的な政策が発動されなければ、財政政策の効果はかなり低下します。

また、PPPと同様に企業融資を支える対応として、中小企業に対する直接融資制度(Main Street Lending Program)が、4月にFRB(連邦準備理事会)と財務省によって創設されました。ただ、損失を政府資金で負担する事情があり、財務省が将来の損失回避を試みたことで制度設計に時間がかかり、開始が6月までずれ込みました。

そして、これに対して既にFRBによる資金拠出が行われていますが、金融機関による活用は7月になってもほとんど広がっていません。財政政策による景気下支えとして、PPP同様の効果は期待できないと筆者は考えています。

以上を踏まえると、6月までは危機対応として大規模に経済活動に回っていた財政政策が、7月末の議会での決定次第ではありますが、早ければ8月にも家計や企業に行き渡らなくなるリスクがあります。

金融財政政策をテコに流動性が生まれそれが持続的に株高を支えるためには、これらの政策が経済復調を同時に後押しする必要があるでしょう。ただ、今後十分な追加財政政策が発動されなければ、6月まで順調だった経済活動にブレーキがかかります。

このため、筆者は米国株市場の先行きに関して慎重に考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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