はじめに
モンゴル帝国が発展させたシルクロード交易
2度目のペスト・パンデミックは壊滅的でした。14世紀にヨーロッパ全土で大流行を起こし、およそ1億人が死亡。その頃の世界人口が4億5000万人だったことを考えると、まさに人類滅亡の危機ですらあったかもしれません。
このときは、やはりマーモットが原因ではないかと見られています。マーモットはモンゴルから中国西部、天山山脈周辺まで広く分布しており、この地域でたびたびペストが小規模な流行を起こしていたのです。
ペスト菌をヨーロッパに運んだのは、シルクロードでした。6世紀の頃とは大きく異なり、ユーラシア大陸を大横断するルートが築かれて、たくさんの商人が行きかうようになっていたのです。開発したのはモンゴル帝国でした。
シルクロードが文明を発展させたが、同時にパンデミックの原因ともなった。写真はウズベキスタン、シャフリサブス
騎馬を駆り、中央アジアからアラブ世界、ヨーロッパと次々に征服し巨大な帝国をつくりあげたモンゴルは、いまでいうグローバル化を促進させていきます。街道を整備し、治安を安定させ、駅伝制度によって通信システムを確立し、東西交易を活発にさせました。こうしてユーラシア大陸をゆく旅人が急増したのです。
かつてモンゴル帝国の首都が置かれていたハラホリン。いまは16世期に建てられたチベット仏教の寺院群が残る
人、モノ、情報が行きかうようになったシルクロードに乗って、マルコポーロやイブン・バットゥータといった歴史的な旅行家も生まれます。彼らは現代のバックパッカーたちの大先輩のような存在だったかもしれません。インフラと治安の改善が、旅行者の増大を促して、文化交流と商業を発展させる……それはLCCの広がりとネット網の拡大によってグローバル化が進んだ現代にもよく似た状況だったかもしれません。
現代のコロナウイルスは飛行機によって全世界に拡散していきましたが、ペストはシルクロードの隊商に潜んでいました。マーモットが生息する地域も、シルクロードは貫いていたのです。