はじめに
議長や司会者のいない対等な対話がベース
オープンダイアローグは、「急性精神病における開かれた対話によるアプローチ」と呼ばれるように、主たる治療対象は発症初期の精神病とされています。相談依頼の電話があると、その電話を受けた人が医師であれ看護師であれ精神保健福祉士であれ、依頼から24時間以内に初回ミーティングを行ないます。
参加者は患者本人とその家族、親戚、医師、看護師、心理士など。ここで重要なのは、患者本人抜きのスタッフだけのミーティングはいっさい行なわないことです。
ミーティングには議長や司会者はおらず、本人抜きではいかなる決定も行ないません。ミーティングでは、治療者たちが患者本人の妄想を否定せず、真剣に耳を傾け、さまざまな方向から検討します。患者の苦しんできた経験を言葉で再構築し、視点を交換していくことで、しだいにポジティブな変化が患者の中に起きてくるというのです。
日本で行なわれたシンポジウムの内容を収録した『オープンダイアローグを実践する』(日本評論社)のなかで、オープンダイアローグの先駆者であるヤーコ・セイックラ氏はこのように述べています。
「早い段階からクライシスを抱えた患者と家族、ソーシャル・ネットワークが接し、しっかりサポートしていくことで、薬の量は顕著に減らすことができます。薬を使わないことに主眼があるわけではなく、患者と早いうちからオープンな関係を築くことの結果として、薬の量を減らすことができるのだ、とお考えいただければと思います。」
人と人が対話することの意味
オープンダイアローグは日本でもとても注目されていますが、実際の臨床の場での導入は、まだまだ試行段階です。しかし、薬ではなく人との対話が病気を癒すというその本質は、新しい装いをしていながら、実は昔から自然に行なわれていたものなのかもしれません。
コロナ禍により人と接する機会が減り、コミュニケーションが簡素化していく方向にあるいまだからこそ一層に、人と人が対話することの力強い意味を、あらためて確認しておくことが私たちには必要なのではないでしょうか。