はじめに

2020年5月29日に年金制度改正法が成立したことにより、国民年金と厚生年金の受け取り開始時期の選択肢が広がりました。

選択肢が広がることは喜ばしいことですが、逆にどうしたら良いのか悩むこともあるかもしれません。知っていれば、と後悔しないために50代のうちに理解しておきたいポイントについてお伝えしたいと思います。


改正で年金の受け取りはどう変わるの?

現在、公的年金の受け取りは「60歳から70歳までの間で自由に選択できる」ことになっています。今回の改正により2022年4月1日からは「60歳から75歳までの間」と5年延長になりました。

公的年金を65歳より早く受け取ることを「繰り上げ受給」、65歳より後に受け取ることを「繰り下げ受給」といいますが、繰り上げと繰り下げの受給に関する改正内容を取りまとめたので見てみましょう。

繰り上げ・繰り下げの受給に関する改正

実際に繰り上げと繰り下げをした場合改正後の効果についてお伝えします。

繰り上げ受給額は現行と比べ、改正後に最大約5万円の増額

公的年金は、一生涯受け取ることができるため長生きリスクへの対策となります。現行の制度では、繰り上げて受け取る時の減額率は月当り0.5%です。

もしも60歳から受け取る場合には30%(0.5%×60ヶ月)減額となります。しかし、2022年4月1日から減額率が0.4%に変更となるため、同様に60歳からを受け取る場合の減額率は24%(0.4%×60ヶ月)へと今よりも低くなります。

たとえば、国民年金(老齢基礎年金)を満額受け取る場合、年間の満額78万円に対して繰り上げ受給額は54万6,000円から59万2,800円へ4万6,800円増えることになります。

ただし、概ね81歳時点で繰り上げ受給の累計額は65歳受給開始の累計額を下回ります。平均寿命が男性81.25歳、女性87.32歳(2018年厚生労働省の統計)であることから、男性の平均寿命辺りが損益分岐点と言えます。

繰り上げ受給の注意点

繰り上げを検討する時には、他の制度への影響を考慮する必要があります。主な影響を挙げてみました。

1.「国民年金に任意加入中の場合は繰り上げ請求できない。また、繰り上げ請求後に任意加入することはできない。」
50代の場合、大学生だった頃に国民年金は任意の加入だったので加入していなかったという人もいるかと思います。いわゆるカラ期間と言われ、年金の受給資格期間に含められるものの年金額には反映されません。

年金額を増やす方法の一つとして60歳以降の任意加入(厚生年金に加入していない場合)があります。繰り上げをすると国民年金の受給額を増やすことができなくなるため注意が必要です。

2.「国民年金の繰り上げ請求後は、事後重症などによる障害年金の請求ができない」
事後重症とは簡単にいうと障害認定日後に障害状態が悪化することです。障害認定日で受給が認められなくても事後重症の場合には再請求ができるのですが、繰り上げ請求をするとその時点以降、再請求ができなくなります。

3.「国民年金を繰り上げ請求すると、65歳になるまで遺族厚生年金・遺族共済年金を併給できない。」
たとえば会社員の夫がいる妻の場合、万が一の時に遺族厚生年金を合わせて受け取ることが65歳になるまで出来なくなります。

また、国民年金に加入していた個人事業主の妻などが夫死亡後に受給する寡婦年金についても繰り上げ請求時点で受け取ることができなくなるなどデメリットを受けることもあるので注意が必要です。

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