はじめに

日本の新型コロナウイルス新規感染者数は5月対比で高水準が続いており、第二波が懸念されています。一方、感染再拡大からおよそ2ヵ月が経った8月中旬でも重症者数は抑えられており、政府も「医療提供体制はひっ迫した状況ではない(安倍首相)」と繰り返しています。結果として死者数の増加は緩やかで、引き続き他国対比で被害の抑え込みに成功しています。

しかし、経済の落ち込みは深刻です。


日本経済はリーマンショック時以上の落ち込みに

4~6月期の実質GDPは前期比年率-27.8%(前期比-7.8%)とリーマンショック時の-17.8%を超える統計開始以来最悪の減少となりました。日本の新型コロナウイルスの被害は相対的に小さかったものの、経済は米、ドイツ、スウェーデンなどと同程度に落ち込んでいます。

その後の回復ペースも鈍く、地方支援の呼び水となるはずだったGo To トラベル事業も一部自治体の首長が独自に移動自粛要請や緊急事態宣言を出したこともあり盛り上がりに欠けています。7月の景気ウォッチャー調査で先行きDIが大きく低下するなど、経済活動再開の機運は高まっていません。

懸念される経済的死者の増加

今後懸念されるのが経済的要因による死亡の増加です。総務省によると、4月から6月にかけて日本の雇用者数は145万人の大幅減少となりました。

失業者が職探しをあきらめて労働市場から退出したことや、政府がリーマンショック時のおよそ4倍となる総額234兆円、真水63兆円の未曽有の規模の補正予算を成立させ、休業手当の一部を補う雇用調整助成金や持続化給付金などの政策対応を行っていることもあって失業率は2.8%とコロナ前の2月から0.4ポイントの上昇にとどまっています。

しかし、こうした巨額の財政出動の長期継続は難しく、飲食や観光を中心に事業継続の見込みが立たない中で倒産や廃業が増えると予想されることから、今後も雇用情勢は悪化を続け失業率も上昇すると見られます。

失業率と自殺者数には高い相関があり、仮に失業率がリーマンショック時とほぼ同じ5%まで上昇した場合には、失業率が2.4%だった場合と比べて自殺者は「毎年」1万人ほど増えた状態が続く計算になります。新型コロナウイルスの死者はこれまで累計で約1100人、平均年齢はおよそ80歳ですが、自殺者の平均年齢はおよそ50歳です。経済学で一般的に行われているように死亡者の残存寿命を考慮すると、経済的要因による死亡が社会に及ぼす影響はさらに大きくなります。

持続可能な対策を

経済的要因による死亡のほかにも、新しい生活様式に基づく感染症対策は飲食、宿泊、娯楽、実店舗小売、教育業の事業継続に広範な悪影響を及ぼします。また現時点では定量的な分析が困難なものの、学校活動・スポーツの制限による教育の遅れや外出自粛による精神・健康面での悪影響、介護施設における長期に亘る面会禁止なども社会的な負担を招いています。

そしてこうした行動制限はあくまでも感染拡大を遅らせるためのもので、ウイルス自体に対処するものではありません。ワクチンの完成時期も不透明で、WHOはワクチンが見つからない可能性、米感染症研究所所長のファウチ氏はワクチンが出来たとしてもその効果が限定的となる可能性をそれぞれ指摘しています。

新型コロナウイルスとのかなりの長期戦が見込まれる以上、その対策にも持続可能性が求められます。感染症による死亡を防ぐことはもちろん重要ですが、経済的要因による死亡を防ぐのも同じく重要です。医療崩壊につながるような状況でない限り、経済活動の再開もまた命を守る行動といえます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>
<写真:ロイター/アフロ>