はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は深野康彦氏がお答えします。
今後の生活について質問があります。家族構成は私44歳、母72歳。年収は約700万円で、支出が約450万円です。現在、借金が700万円ほどあり、借金の支払いは先の450万円とは別に、年間200万から250万円を予定しています。また不動産評価額は約2000万円です(立地は市街化調整区域ではあるが、近辺の自動車産業のおかげで人口は横ばい。
私には浪費癖があり、過去にカードローンなどで大きな借金をしました。現在は親戚からかき集めたお金で金融機関から借りている分についてはすべて完済しています。親戚には年200万円程度を返済していく予定です。まずは借金返済を優先し、完済予定の46歳から本格的に自分自身の老後のために備えていく予定です。資産については、持ち家と土地がありますが、そこで姉が商売をしているため、現在は売りづらい状況です。
今回ご質問したいのは、家族を説得し、早期の借金完済のために不動産を売却することは得策かどうかということです。例えば売却後の住居を賃貸にした場合のメリット・デメリットを教えていただけないでしょうか。また、このような状況のなかで自身の老後のためにすべきことをご教授いただけたら幸いです。
(40代前半 独身 男性)
深野: 回答に移らせていただく前に少しばかり厳しいことを述べるかもしれないことをお許しください。
「本当に改心できるのか」
ご質問に「浪費癖がありカードローンなどで借金」と書かれていますが、仮に不動産を売却し、借金を早期完済されたとして、本当に改心できるのでしょうか。
不動産を売れば借金は一気に完済となりますが、肩の荷が降りたことから再度借金をしないまでも、また浪費に走る可能性は否定できないと思うのです。
これは、これまでの家計相談などの経験上感じることです。また自己破産をする際にも、ある程度、自助努力で返済して改心したと判断されてはじめて免責、つまり支払い義務が免除されます。
ご質問者の方がこれまでどれだけ借金を返済されてきたのかはわかりかねますが、年収700万円もあるのですから借金を返すのも決して難しくはないはずです。
質問者の方が書かれている計画であれば、親族からの借金も3年から4年で完済する予定になります。仮に4年として、その時のご質問者は48歳。毎年の借金の返済額と同じ金額を老後資金の準備に充てれば、60歳までの12年間で2,400万円から3,000万円を貯めることができるはずです。
さらに退職金が上乗せされれば、人並みの老後資金を準備することができると考えられます。
不動産を売却しなければ、老後の住まいを確保できる点、並びに60歳以降の住居費という固定費を抑えられる意義は大きいと言えます。
不動産を売却すると
老後資金の準備はできると思う一方、不動産の売却についても考えてみましょう。
お姉さんが商売をされているとのことですが、お姉さんは商売を止めて生活に支障はないのでしょうか。
支障がないのあれば売るのもひとつの手ですが、売却して賃貸住まいになった場合、新たに賃貸料が発生することになり、先に述べた老後資金の準備は、かなりの減額になることもありえます。
仮に不動産評価額2,000万円で売却できたとして、借金を返済すると残りは1,300万円です。売却時の諸経費が発生し、売却益があるのであれば税金が課せられるため、実際の残額はもっと少なくなるでしょう。
もし残額で60歳までの家賃を賄えれば、老後資金は先の金額よりも少し多目に確保できるかもしれませんが、一方で60歳以降の支出に家賃が加わることが心配になります。
現在の生活費の記載がなく、また家賃をどれくらいで設定するのかで今後の支出や老後の支出の試算が変動するため、なんとも言えませんが、高齢に差しかかるお母さまがいることを考慮すると、やはり現状のまま家を保有しているほうがよい気がします。
お母さまが慣れ親しんだ環境が大きく変わることで、体調や精神的な変化をきたさないかも配慮する必要があると思います。
老後まではまだ時間があります
蒸し返すようで申し訳ないですが、仮に不動産を売却してまとまったお金が入った場合、そのお金に手を付けないでいることができますか?
ご質問からは借金返済後は老後の準備のためにがんばるという旨が書かれていますが、お金の使い方に対する癖は一長一短で変わるものではありません。
年を重ねれば重ねるほど習慣を変えるのが難しいことも考慮すれば、不動産を売るのは得策ではない気がします。
ご気分を害してしまいましたら重ね重ねお詫び申しあげます。とにかく、まだ老後まで時間が残されているのですから、目標に向かってがんばっていただきたいと思います。