はじめに
安倍総理の辞意表明から“新首相”選びが注目されています。9月14日に自民党内で行われる総裁選で後任が決まり、17日にも召集される臨時国会の首相指名選挙で決定する流れとなっています。
出馬表明した菅義偉官房長官(71歳)、岸田文雄政調会長(63歳)、石破茂元幹事長(63歳)のなかで見ると、自民党内の主要派閥の支持を受けた菅氏が優勢との見方が強くなっています。
菅氏が新首相となれば、アベノミクスの政策を引き継いで、新型コロナ対策と景気回復という足元の大きな2つの課題に取り組んでいくため、政策的にこれまでの流れと大きな違いがないと見られています。
すでにマスコミ各社では、新首相が決まった場合に政策や景気への影響はどうなるか様々な予想がとりあげられています。そこで本稿では、ちょっと違う視点から株価への影響を考えてみます。注目したのは“首相就任時の年齢”です。年齢と在任期間の株価がどうなったかを調べてみました。
<写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ>
企業のトップは若いほうが良い
すこし昔になりますが、4月10日の記事「人生100年時代「取締役の年齢」は株価パフォーマンスを左右するのか」では「取締役の平均年齢が低い企業のほうが、年齢が高い企業と比べて株価パフォーマンスが良い」という結果を紹介しました。
実は会社のトップとなる“社長の年齢が高い企業ほど企業業績が悪い傾向がある”ということは良く知られている通説です。これは、同時の記事なかで紹介した東京商工リサーチの分析結果からも裏付けられました。
この理由の一つとして、社長が高齢化するほど経済環境の変化への対応が遅くなるからといわれます。社長、取締役共に年齢が若い方が企業のパフォーマンスが良い傾向があるようです。
首相就任時の年齢と株価パフォーマンスの関係は?
では、国の政治のトップならどうなるでしょうか。同じように年齢が若い方が株式市場全体のパフォーマンスが良くなる傾向があるのでしょうか。実際に首相就任時点の年齢と在任期間の株価を分析してみました。
株価のデータは、第二次大戦後に東証が再開された1949年5月16日から計算されている日経平均株価を使いました。それぞれの首相の在任期間の日経平均の騰落率を5歳刻みの年齢層で分類し、平均騰落率を算出しました。
現在の安倍内閣は2014年12月から始まった第三次発足時の年齢を採用しています。就任時点の年齢は前第二次と通算することなく、首相が任命される都度を集計の対象としました。長期で首相を在任していても、首相として任命されるタイミングで他の候補者が首相となる可能性があるなかで再選されたからです。
結果を見ると、どうやら年齢が若い方が高い方と比べて株価が上がるとは単純に言えなさそうです。
最も若い年齢層となる就任時の年齢が「54歳まで」は4回ありました。この4回のうち3回、株価が上昇したため3÷4=75%と確かに高い勝率となっています。しかし「65歳から69歳まで」の方が90%の勝率ともっと高い値です。平均騰落率で見ても「54歳まで」は7.1%ですが、これは「60歳から64歳まで」の16.6%と比べて劣っており。最も年齢が高い「70歳から」の11.3%よりも低い水準です。
株価パフォーマンスが最も良いのは「65歳から69歳まで」で平均騰落率、勝率とも他を上回っています。「トップは若いほうが良い」という企業における定説が、国のトップである首相には見られないという結果となりました。
日本経済の舵取り役という重責
安倍総理は「新型コロナウイルス感染症への対応で、年明けから147日連続で執務」したと話題になりました。首相は激務になります。そのなかで重責となる様々な政治判断をしなければならないため、多くの経験やたくさんの人脈がとても重要となってきます。
改めて自民党総裁選の候補者をみてみましょう。菅氏は「70歳から」の年齢層に該当します。この“層”は平均騰落率も2桁(11.3%)となり、勝率も高い水準(73%)です。岸田氏や石破氏は「60歳から64歳まで」となりますが、こちらは勝率は劣りますが、騰落率は上回っています。
年齢層別の結果を参考にした特徴からは「70歳から」の首相のケースでは、安定して上昇する在任期間となるケースが多いようです。一方、「60歳から64歳まで」は勝率が63%のため、在任期間に下落したケースが4割弱はあることは留意されますが、16.6%の平均騰落率に見られるように基本的には高い上昇が期待されます。
新型コロナ対策に東京オリンピック、新首相には様々な難題が待ち受けていますが、どの人がなっても日本経済に良い結果をもたらしてくれることを願ってやみません。