はじめに

遺産分割協議書に必要だった一言

10年前の遺産分割協議書を確認してみると、次のような内容でした。

・自宅はムツオが相続する。
・預貯金は弟、妹で2分の1の割合で相続する。
・ムツオは代償金として、弟と妹に各1,000万円を支払う。

この内容について専門家からは、これでは山林の名義変更は難しいので、山林に関する遺産分割協議が必要と言われてしまいました。しかし、ある一言があれば状況が変わっていたかもしれなかったのです。

その一言とは、「相続人〇〇は、本協議書に記載のない相続財産及び後日判明した財産を相続する。」 という内容です。

10年前にムツオさんが作成した遺産分割協議書にはこの記載がありませんでした。この記載があれば記載された相続人へ名義変更ができたのです。

結局のところ、今回の山林については、開発により価値が生まれたため、専門家を通してではありますが、名義変更を行い、買い取ってもらったお金を平等に分けることができました。

世の中、こんなにうまくいくことばかりではありません。災害などで所有者だった親の相続人として連絡がくることがあるかもしれませんし、それが負担になることがあるかもしれません。では、この相続の準備として何をしていればよかったのでしょうか。

親が準備できること

今回のケースでは、母親としては何を準備しておくことができたでしょう?

一番は、財産の状況が分かる資料を作成しておくことです。今回のように不動産だけのお話ではありません。最近ではネット銀行が普及してきています。ネット銀行は通帳が発行されない場合も多く、相続人が存在を知らないと手続きが行われずに放置されてしまうケースもあります。他にも、生命保険なども証券が見つからなければ放置されてしまうでしょう。自分は、財産として「何を」「どこに」所有しているのかを明確にしておく必要があるのです。

これについては、エンディングノートなどを活用することが可能です。ほとんどのエンディングノートには、財産を記載するページがあるからです。

本当のところ、母親は自宅や預貯金をどうしてほしかったのでしょうか。一緒に暮らしていた長男に引き継いでほしいと思っていたかもしれません。もしかしたら、まったく別の考えがあったかもしれません。亡くなった後となっては、これを知ることはできません。しかし、子どもたちには、いつまでも仲良くしてほしいと思っていたのではないでしょうか?

このような想いがある場合は、遺言で相続する人を決めておくことができたのです。なぜその人に相続してほしいと思ったのかを、手紙やエンディングノートに書き残すこともできたかもしれません。このようなことを自分で行うことが難しい場合は、専門家に相談することもできます。

相続人ができたこと

相続人としても、遺産分割協議においてできたことがあります。

それは、もし自分たちの知らない財産が見つかった場合には、その財産をどうするということを記載しておくことです。

相続人の間で険悪な関係になってしまった場合には、この記載をすることで何か財産を隠しているのではないかと考える方もいます。そんな時は、信頼のできる専門家に第三者として財産の調査を依頼することもできます。

遺産分割協議書は、ただ手続きをするために作成するものではありません。その後の争いを避けるためのものでもあるのです。

解決できないことや何が問題か分からない場合には、専門家に相談をしてみましょう。
自分では気が付かなかった問題が明確になるかもしれません。

<行政書士:細谷 洋貴>

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