はじめに
夫を愛しているかどうかは、もうわからない
夫婦は離婚を巡って争っているとはいえ、子どもを巻き込みたくはないとミハルさんは考えていました。かといって夫に子どもたちを会わせるのも不安がありました。
「夫は面会交流権を駆使したんです。代理人同士が話し合い、月に1回、夫は子どもたちに会うことができるようになりました。あとは子どもの意志。ふたりに確認したら会いたいと。上が男の子なので、父親に相談したいこともあるんでしょうね。夫が子どもへの情にほだされて離婚をとりやめるのではないかと、淡い期待をしたこともあります」
子どもたちは父親に会うたび、プレゼントをもらってきます。子どもがかわいい気持ちは変わっていないのでしょう。それでも夫の離婚の意志は固いようです。一方、ミハルさんの離婚拒絶の意志も固いので、このままではいつになったら解決するかわかりません。
「でも婚姻費用がもらえる限り、私は今のままでいいんです」
ミハルさんはそう言って、ほんのり笑みを浮かべました。その裏にあるのは、夫への愛情なのでしょうか。
「私が離婚したら、夫はたぶんそのオンナと結婚するわけですよね。それだけは避けたい。そう簡単に裏切りが正当化されてなるものかと思う。それがいちばん悔しいんですよ。じゃあ、夫がオンナと別れて帰ってくると言ったら私はすべて水に流して受け入れるのかと自問すると、それもすんなりうまくいくとは思えないんですけどね」
中途半端な状態は、人の心を不安定にするものですが、彼女にはむしろ、このハンパな状態のほうが安定しているようです。結論が出たら自分の態度も決めざるを得ませんが、そこに至ることを拒否したいのかもしれません。
「コロナ禍で裁判も延期になっていましたが、最近、再開されました。そろそろ結論を出すべき時期に入ってきているのを実感していますが、私としてはあくまでも離婚をしないと主張し続けるしかありません」
突然、離れていった夫の心をどう考えたらいいかわからない。それが彼女の本当の気持ちなのではないでしょうか。