はじめに

それでも人は旅を取り戻す

古代から、軍隊はさまざまな情報や物資や文化を運ぶ旅人でもありました。古代マケドニアのアレキサンドロス大王遠征軍は、ギリシアの文化を東へと伝え、進軍する先々の文化と混じり合い、独自のヘレニズム様式を生み出しています。ナポレオン率いるフランス軍はエジプト侵攻の際にロゼッタ・ストーンを発見し、これが古代エジプトの象形文字ヒエログリフを解読する突破口になりました。

そしてモンゴル軍がペストを運んだように、第一次大戦下の米軍はスペイン風邪を媒介してしまったのです。感染症が人の群れと移動を好む存在である以上、「旅人の最大単位」である軍隊に寄生するのはごく自然なことであるのかもしれません。

スペイン風邪はおよそ2年後の1920年に収束。すると世界は、以前より力強くグローバリゼーションを推し進めていきます。「空の時代」が始まったのです。1903年にライト兄弟が世界で初めて有人動力飛行に成功してから飛行技術は長足の進歩を遂げ、1919年にはロンドンとパリを結ぶ国際航路が開設。同じく1919年には世界最古の航空会社KLMオランダ航空がロンドンとアムステルダムを結びました。ここから一気に航空網が発達していきます。スペイン風邪パンデミックの前よりも、世界はさらに緊密化し、旅は一般化していったのです。

コロナ禍の出口はまだ見えません。しかし人類は幾度もの、まるで大災害のようなパンデミックを乗り越えてきました。旅行すること、移動することそのものが危険視されてもきましたが、収束した後はもっと遠く、もっと深く、人は旅することを求め、また実現してきています。

03きっとまた旅できる日が来る。そのときは旅行文化はさらに発展するはず

知らないところへ行きたい、見てみたいという好奇心は、人類の進化の源であり続けました。それは感染症では止められない、人のDNAに刻まれた本能のようなものでもあると思うのです。であるなら、人類は再び、それも近い将来、きっと旅を取り戻すはずです。