はじめに

結婚したものの

「彼ともなんとなくぎくしゃくしていましたしね。両親の勧めるごく普通の会社員と結婚しました。彼にお見合いがうまくいってると言ったら、『オレの収入じゃアカネを幸せにできないもんな』『いつ会社ごとつぶれるかわからない。実は今が瀬戸際なんだ』と本音を明かしてくれたんです」

他の男性と結婚して子どもも生まれたが、アカネさんは結局、3年足らずで離婚しました。そして離婚届を出した次の日に、学生時代の仲間から「タクトが大活躍している」という話を聞いたのです。

「時流に乗ったのか、会社がうまく回り出してたった3年で業界内では注目される企業になったそうです」

ふふ、と彼女は低く笑いました。彼を信じ切れなかった自分に対して、皮肉な笑いが浮かんでくるのだそうです。

「やっぱり安定した生活がいちばんだという親の思いに負けてしまった自分が、なんとも悔しいです。私は彼のことが本当に好きだったから」

こんな後悔はしたくなかった。彼女はぽつりとつぶやきました。

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