はじめに

バイデン政権の左傾化が株価暴落を生む?

さらに大きな影響を及ぼしそうなのが規制強化です。バイデン候補自体は中道派ですが、民主党が完全勝利し上院、下院ともに過半数を握ると、党内左派の勢いを抑えられず急進的な政策が採用される可能性が高まります。

バイデン候補は大統領に就任後、最初に取り組む政策としてパリ協定への復帰を挙げていますが、民主党内部にはトランプ政権が進めてきた環境関連の規制緩和の巻き戻しだけでなく、エネルギー企業によるシェールオイル開発に欠かせない水圧破砕の禁止や、パイプラインの延伸打ち切りなどを支持する議員が多数存在します。

民主党は金融規制の強化にも積極的です。リーマンショック後に導入された厳格な金融規制、いわゆるボルカールールをオバマ政権下で中心となって推し進めた立役者は大統領候補にもなったウォーレン氏です。

また、ペロシ下院議長は2019年に処方薬の価格抑制に向けて政府が製薬会社と価格の交渉を直接行う法案を公表していますが、こうした動きはヘルスケアセクターの利益率引き下げに直結します。

最も株式市場への影響が大きそうなのはハイテク規制です。10月6日、下院司法委員会の反トラスト小委員会は、特定の支配的なプラットフォームの解体を目指すという衝撃的な勧告を行っています。こうした動きが広まれば、米国の株式市場をけん引してきた巨大ITプラットフォーム企業に大きなダメージとなります。

IT、コミュニケーションサービス、ヘルスケア、金融、エネルギーは米国株式市場の6割強を占めるため、民主党政権による規制強化は株価の暴落を引き起こしかねない大きなリスクとなります。

為替の動向についても注意が必要です。FRB(連邦準備制度理事会)のブレイナード理事は民主党政権の財務長官候補として有力視されていますが、彼女は財務次官だった2013年に、アベノミクス下の日銀による金融緩和に否定的なコメントを出し、たびたび円高を引き起こしています。株安に加えて円高となれば日本の米国株投資家への影響はさらに大きくなります。

今年序盤のマーケットでは民主党の大統領候補にウォーレン氏やサンダース氏が選ばれるリスクが警戒されていました。しかし、たとえ中道派のバイデン氏が大統領になっても、民主党が選挙で完勝すると結果として株式市場がかつて恐れていたシナリオが実現してしまう可能性が出てきます。

民主党完全勝利がバイデン政権の左傾化をもたらすリスクには改めて警戒が必要です。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>
<写真:ロイター/アフロ>

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