はじめに
その走りとは
そうしたせめぎ合いの中で誕生したのが観音開きドアを持ったRX-8だったわけです。当時の開発主査である片渕昇氏に、お話をうかがったときには
「なかには“私が4ドアにしてしまった”という人もいるかもしれませんが、当時の状況では仕方ないですよね」と少し寂しそうに話されていました。ただ「4ドアでも一級品のスポーツカーに仕上がっている自負はあります」と片渕氏はエンジニアとしてのプライドを見せます。
とにかくロータリーを搭載した4ドアスポーツという命題に対する最善策として、短いリアドアを与え、その実用性を上げるために前開きにしたのです。スポーツカーにとって低く、短く、幅広に、というのが理想ですから、ボディサイズの前後長を短くすることは運動性能を上げるために必須条件。それを4ドアでクリアするために、この観音開きという方法論が最良だったわけです。
リアドアの開閉ハンドル。前ドアを開けないと開けられません
こうして片渕氏を始め、多くのエンジニア、そしてマツダの社員の想いを乗せたRX-8によってロータリーエンジンは復活を遂げることになりました。そして2012年までの10年間、RX-8は走り続けてきました。ただし、これ以来、ロータリーエンジンを搭載した乗用車はありません。
では現在のMX-30に話を移しますと、同じクラスのCX-30とボディの前後長が同じです。つまりフリースタイルドアという両開きドアの採用には“前後を短くする”という理由はあまり関係ないように思います。
一方、このクーペスタイルであっても良好な乗降性を実現し、同時にデザイン上の自由度も増していることを考えると、この方式を採用した利点が見えてきます。最初にも話しましたが、センターピラーがありませんから、両ドアを開け放った時の開放感、そして独特の華やかさは、十分に効果的だと思うのです。
リアの乗員は体をひねることなく、前方向に降りることが出来るので、乗降性も良くなっています
なかにはセンターピラーがないことでボディ剛性の低下を懸念する人が多いのも事実です。しかし、実際に走らせてみると、何とも快適な走行性を示してくれ、その懸念も払拭されました。
デザインも違えば、マツダのラインナップの中で、モーターを使った電動車というポジションもMX-30独自のものです。ちゃんとした役割を持って登場したことになるわけですが、最後にもう一点、注目できるのは“ロータリーエンジンの復活は、また観音開きから”ということです。今後、登場する発電用エンジンを積んだレンジエクステンダーには効率のいいロータリーエンジンを採用する予定です。
タイヤを直接回すことはありませんが、発電という役割を、マツダのプライドであるロータリーエンジンが受け持つのです。私はここにマツダらしいロマンを感じるのです。そして今後のピュアEV、そしてレンジエクステンダー、そのデビューがとても楽しみになりました。