はじめに
どうしてもあと1000万円足りない?
――ここから順調に進展したのですか?
いえ、問題がありました。物件価格は1億1,000万円です。当時の自己資金は、どんなにかき集めても1,000万円。1億1,000万円の物件を買うのなら諸費用で700~800万円。自己資金を使い切るわけにはいきません。ですから1億1000万円の満額フルローン融資を申し込ました。でも、問題があって、その金融機関は中古の収益物件に関して、融資上限が1億円でした。「1億円は出すけど、残りの1000万円と諸費用は自分で出してくださいね」と言われたら、もう無理になってしまいます。
――では、満額融資が通るかどうかがキーとなるわけですね。
そうこうしているうちに、買付期限の当日になってしまいました。このままでは物件が2番手の人に持っていかれてしまいます。でもその朝、金融機関から電話がかかってきて、「支店長決裁も下り、本部の方でも通りそうなので、2~3日だけ待ってほしい」と言われました。すぐに不動産会社へ「たった今支店長決裁で1億1,000万円が下りました」と電話しました。すると不動産会社も、「そうなったらもう契約しましょう」と了承してくれたのです。それで物件を押さえることができました。
――その時点では本部決済は通ってなかったと思うと、ギリギリですね。
その2~3日後に本部から正式に事前承認が下りて、無事に1棟目が買えたのです。なぜ、中古の収益物件の融資上限が1億円で、1億1,000万円の融資が下りたか? それは、1億円はアパートローンを使い、残りの1,000万円はプロパー(事業融資)でやると言ってくれたからです。そういうやり方もあるのかと知りました。
――プロパーといえば事業者に対する融資です。1棟目からそれを受けられるケースがあったということですね。
同じ金融機関の他の支店では「1億円が限度です」と受け付けてもらえませんでした。担当者と支店によって、方針がずいぶん変わるということを、そのとき初めて知ったのです。これが私の1棟目のデビューです。購入できてからは運営も順調で、1室テナントがあって空いていましたが、すぐ満室になりました。
融資のコツは「お金」だけではない
――不動産投資を始める際に心がけることはなんでしょうか。
大家さん志望の方の第一の関門は、融資だと思います。もしコツがあるとしたら、決して諦めないこと。特に今は私たちがやっていたときと比べても、不動産投資の環境は整っています。担当者とのご縁、不動産の物件の良しあし、それがバチッと合うときがある。だからこそ、縁を大切にして絶対に不義理を働いてはいけない、と痛感しました。
――融資は人間関係も大事、と。
そうです。もう1つは、当時の私がハウスメーカーにいたという属性にあぐらをかかなかったのが幸いしたのかもしれません。「どこにお勤めですか?」と問われたら、「住宅関係の会社なので現場のことは把握しています」で留めるようにしました。銀行も同じで「積水ハウスに勤めています」と答えたら、すごくアドバンテージがあるように見えますが、実際「賃貸事業者としても有能か?」といえば関係ありません。「自分は不動産賃貸業1年生です」という謙虚な気持ちと、「これからこうしていくんだ」という目標設定がしっかりできていないと、銀行は相手にしてくれない。それが散々断られているうちに分かってきたのです。
――そこから順調に買い進められて、最終的にはサラリーマンを卒業したのですね。
ちょうど42歳のときに辞めました。私は30歳のときに積水ハウスに転職したので、12年目に辞めています。辞める当時は(借入を含めた)資産が10億円、家賃収入も1億円を超えていたので、もう辞めても大丈夫と判断しました。あとはサラリーマンをやっていても税金で出ていく分が多く、続けている意味もなくなったのが理由でした。
※この記事は投資を推奨するものではありません。自己の判断のうえ、投資を行ってください。