はじめに

セグメントニーズを読み間違えた?

有力なのは「セグメントニーズが違った」ということだ。セグメントとは同じような特性を持ったユーザーのかたまりのこと。世の中にはおしゃれな家具がほしいと思うユーザーがたくさんいる。仮説ではあるが、そのようなユーザーがかたまりとしてはふたつの違うセグメントに分かれている可能性がある。

ひとつはすてきなデザインの家具を「お値段以上の価値」、つまり、どちらかといえば「とても安く」手に入れたいという顧客セグメント。

そしてもうひとつは真の価値がある家具を手に入れたいと考える顧客セグメントだ。どちらもおそらく存在するセグメントなのだが、このふたつは性格や力学がまったく違う。

お値段以上の価値を感じられる家具がほしいという顧客が設定する予算の上限はそれほど高くない。ダイニングテーブルセットであれば10万円以下、リビングソファであれば5万円以下というレベルである。

そういった顧客が求める商品はニトリかIKEAにあり、大塚家具にはおそらくない。この仮説が正しければ、ニトリに来るような顧客層に、大塚家具の店内をふらっと見てもらっても売上にはまずつながらないだろう。

一方で、真の価値がある家具がいいという顧客セグメントは予算には比較的余裕がある一方で、品質に下限がある。たとえばダイニングテーブルがほしい場合、基本的にウォールナットやマホガニーなど高級な木材の一枚板でないとダメだというような顧客である。

そういった顧客が求める家具は大塚家具にはたくさんあるのだが、ニトリやIKEAには置いてはいない。だとすると、そもそも大塚家具はニトリともIKEAとも実は競合していなかったという可能性がある。

大塚家具はどうすればいいのか?

この仮説が正しければ、ニトリの顧客を大塚家具が奪い取ろうという考えは、そもそも顧客セグメントのニーズ的に無理があるということなのかもしれない。

そもそも競争していなかった競合を仮想敵に想定し、そこから顧客を奪うためにビジネスモデルを崩したということを大塚家具は過去2年間やってきたのかもしれないのだ。

もともとニトリ、IKEAと大塚家具は競合していなかったのだとすると、成長するこれらの競合から顧客を奪うという考えは意味がなかったことになる。

「彼らは彼ら」であり、「我々は我々」だったということが大塚家具の検証結果だとすれば、集中すべきは“我々の”顧客セグメントニーズにどう応えるかである。

それは「予算はフレキシブルなので、まずは話を聞いてもらって、その要望に合う商品を提案してほしい」というニーズだった可能性はある。

すると、先代がつくった「とにかく受付をさせて、コンシェルジェ的な案内係をはりつける」というビジネスモデルは今の時代でも顧客セグメントニーズに合っているのかもしれない。

さて、問題はどう失敗に対して方法を改めるかだ。お家騒動の経緯からみるに、簡単には「先代の方が正しかった」とは言えない空気があるだろう。

ではどうすればいいのか? 実はここが経営者の器次第ということなのだが、ひとつのやり方はしれっと方針転換をしてしまうことである。失敗は失敗。その原因をきちんと挙げたうえで、元の方針に戻してしまう。そして方針は戻すが、もちろん経営権は先代には戻さない。

今後、久美子社長がどう動くかはわからないが、実は世の「できる経営者たち」はだいたいそうやって経営をしているものなのである。

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