はじめに
頭が心と体を置き去りにするのがうつの原因
――無理してがんばることが、うつの原因になった、と?
頭と心と体が全部一緒になってこそ一人の人間なのに、頭が心と体を置き去りにして、それらがバラバラになって無理してしまうのがうつの原因だと思います。
例えば、僕の気持ちの上がり下がりには、気温や気圧が大きくかかわっています。
気候から来る体の変調が、心の変調に影響してくる。昔はそれを理解していなかったので自分がなぜうつ状態になるのかもわからず、不安と恐怖でいっぱいに。それなのに頭はがんばろうとしてしまって、症状を悪化させていた。
これは気温と気圧のせいだと理解してからは、「今はこういう状況だから仕方ない」と思えるようになりました。うつ状態になっても、“今、起こっていることは気候による単なる心の変調。体がついていけなくなって心に影響が出ているだけだから、おとなしくしておけば大丈夫”ですみます。
あと、僕は一人暮らしで家に帰っても誰もいないからなのかな、とも思います。一定期間、一緒に住んでくれる人がいればいいのですが……。喋るネコとかがいればいいですね。
――ドラえもんですね!
周囲から理解を得にくい「うつ」という病気
――田中さんがそうだったように、自身がかかるまで、どんな病気なのかわからないという点が、うつ病患者を孤独にしている面があると思います。田中さんも周囲の理解のなさを感じたことはありますか?
うつ病の最中に、以前の会社の同僚と食事をしようという話になった時でしょうか。
ぼくの病気を知っていた元上司がそれを参加予定だった後輩に伝えたら、食事会がなくなってしまったんです。その時、後輩には「うつ病患者と会うのは避けたい」という気持ちがあるのかな、と感じました。
実際に経験している自分は、この病気が変だとは思わないですが、世間一般から見るとそういうものなのかと悲しくなりましたね。病気のために敬遠されることがあるのか。これは、きついな……と。
――うつ病は自分自身だけでなく、家族や友人、同僚、部下もかかる可能性がある病気なので、多くの人に知識や理解を深めてほしいと思いますが……。
ただ、実際にかかったことがない方には、どんな症状が出るのかを想像するのが難しいのも事実ですよね。
でも、『うつヌケ』の感想でこんなものがありました。
うつを患う女性が夫にこの本を読ませたら、「君が普段つらいと言っていた、ずっと苦しんでいる病気は、こういうものだったのか」と理解してもらえ、病気についてコミュニケーションを深めることができました、と。
今は病気の当事者じゃない方にもこの本を読んで、理解を深めるのに役立ててほしいという気持ちがあります。
うつ病は、“名前は知られているけれど症状はよくわからない。でも意外と周りにいる”というような病気。ただ、インフルエンザや身体の病気とは違って、偏見のために病歴を隠してしまう方も多い。
結果として、ブラックボックス化してしまい、ステルスうつが増えていくのだと思います。漫画という読みやすい形式で多くの人に知識を増やしていただけるとうれしいですね。
あと冒頭でお話したように“活字が読めない”といううつ病の症状を感じ始めている方にもおすすめしたい。文字が読めなくても、漫画であれば読めるという人も多いです。
この本でうつについて知って、“もしかすると自分が「うつトンネルの入り口」に立っているのかもしれない”と気付いてほしいですね。
※次回、後編記事では、田中さん自身の闘病と回復エピソードをご紹介します。
◆田中圭一氏 プロフィール
1962年、大阪府生まれ。手塚治虫や藤子不二雄の絵柄を取り入れたパロディを得意とする漫画家。サラリーマンとの兼業でもある。京都精華大学マンガ学科ギャグマンガコース特任准教授。近著に『田中圭一のペンと箸 -漫画家の好物-』『Gのサムライ』など。
『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』 田中圭一 著
累計33万部突破! パロディマンガの巨星である著者自身のうつ病脱出体験をベースにうつ病からの脱出に成功した人たち17人をレポート。明日は我が身かもしれない“心のガン”うつ病について多くの実体験から知識を学べ、かつ悩みを分かち合い勇気付けられる、画期的なドキュメンタリーコミック。