はじめに

問題解決の基本は、相手の「よき理解者」になること

私はクレームの専門家なので、この仕事をやり始めてから一番受けてきた質問は、「クレーム対応は、どうすればうまくできますか?」です。

その質問の答えを簡潔に理解してもらうために、「取材するぐらいの気持ちで相手の話を聴こうとすると、必ずうまくいきます」とお伝えしています。実は、お客様相談室時代にクレーム対応で私がお客様に何度も言われたのが、「あなたは何もわかっていない」「私がどれだけ嫌な気持ちになったのかがわかりますか?」でした。

今だから言えることですが、私は「どうやって、このクレームを終わらせるか?」と、「このクレームの解決策の落としどころはどこか?」ばかりを考えていました。「サービスが悪すぎる! お金を返してほしいぐらいです!!」とお客様から言われたので、「すぐに返金のお手続きをいたします」と返答したことがありました。すると、そのお客様から、「やはり、あなたは何もわかっていない」と言われたのです。

当時の私には意味がわかりませんでした。お客様の要望どおりに、お金を返す手配をするという解決策を出したにもかかわらず、お客様はさらに怒りを大きくしたのです。

しかし、このやり取りで気づいたことがあります。それは、お客様は問題を解決してほしいというより、気持ちをわかってほしいからクレームを言ってきたということです。おそらく、そのお客様は「お金を返してほしい」と言いたくなるぐらい、嫌な気持ちにさせられたことをわかってほしかったのだと思います。

私がやるべきことは、お客様の気持ちに理解を示すことだったのです。「そうでしたか。お話、よく理解できました」「そんなことがあると、嫌な気持ちになりますよね」というような言葉をお客様に伝える必要があったのです。相手の話を最後まで聴き、よき理解者になることが相手の怒りの気持ちを癒すことにつながるのです。

「相手視点」で考えれば、何するべきかに気づける

このときも、やはり私には聴く力が欠如していたのです。お金を返すことで許してもらおうとしていたことがうまくいかない最大の理由だったわけです。許してもらおうとすることと、理解しようとすることは全然違います。許してもらおうとするのは、自分のことしか考えていないからです。“この場を何とか収めたい””この状況から早く逃げたい”という気持ちで、その場限りの対応になっていたのです。これでは、相手と良好な関係を築くことができるはずはありません。

相手の気持ちを理解しようとして話を聴くようにすれば、相手と同じ問題を共有したパートナーの関係になって、「そうか! だから、こんなにお客様は怒っていたのか」「期待していたことと違って、ガッカリされていたのか」というように、お客様が怒っていた理由も手に取るようにわかってきます。

これがわかるようになれば、自分が何をするべきかにも気づくことができます。まさに、解決というゴールに向かって相手と同じ方向に進んでいくことができるのです。私はこのことを学んだ後、クレーム対応で炎上させることはなくなりました。

◎相手からの怒りや指摘は、すぐに収束させようとしてはいけない
【損する言い方】
「同じことがないように気をつけます」「再発防止に努めます」
【得する言い方】
「お話しいただいたこと、よくわかりました」「よく理解できました。次はこうしたいと思います」

『損する言い方 得する言い方 』谷厚志 著


誰かれ構わず不満をぶちまけて敵をつくったり、余計なひと言で相手をイラっとさせたりして、人間関係をこじらせていませんか? 本書では、数々のクレーム対応という修羅場を経験し、今やテレビ番組でも活躍する人気クレーム・コンサルタントが、“言葉の無駄づかいをやめれば全部うまく"という考えと実体験をもとに、誰とでも良好な人間関係をつくれて、仕事も好転する「得する言い方」を「損する言い方」と対比して紹介します。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

この記事の感想を教えてください。