はじめに
バイデン政権や菅政権の誕生などを契機に、世界的に環境への意識が高まっています。これまでも欧州を中心に気候変動などへの意識は高くなっていましたが、コロナ禍からの経済立て直しも相まって、脱炭素の動きが加速している印象です。
そして、クリーンエネルギー関連産業が拡大するなか、菅政権が2020年12月にグリーン成長戦略をまとめ、2050年のカーボンニュートラル実現を打ち出したことで、水素が今、注目を集めています。
なぜ「水素」なのか
水素は、水や有機物の中に構成元素として含まれており、世界中の至る所に存在します。発電や燃料の代替など多くの目的に使用可能なうえ、燃焼させる場合にも酸素と結合させて電気を取り出す(燃料電池)場合にも温暖化ガスを発生させることがなく、クリーンなエネルギーとされています。
一方で、水素は工業用途で還元剤や添加剤などとして用いられているケースが多く、エネルギーとしての利用は未だ少ないため流通量は増えていません。理由は複数考えられますが、非効率である点が一因に挙げられます。
現在、水素ガスの多くは天然ガスから製造されているため、燃料として利用するのであれば天然ガスをそのまま利用した方がコストが低く、無駄がありません。加えて使用時には、CO2が出なくとも、水素生成時にはCO2が発生してしまいます。製鉄所等において副次的に発生する水素を活用する案もありますが、生産量は限られています。
では、なぜ今水素が注目されるのでしょうか。それは、再生可能エネルギーによる発電と組み合わせた活用が期待されているからです。
太陽光や風力による発電の出力は気象条件に左右されやすく不安定であるため、ベースの電源として安定利用するには一旦電力を蓄積する仕組みが必要になります。そこで電池に蓄積するだけでなく、再生可能エネルギーで得た電気で水素を製造(水を電気分解)すれば、環境にやさしい水素燃料(グリーン水素)が製造できます(グリーン水素に対し、化石燃料から作る水素はグレー水素、生成過程で発生するCO2を回収する場合はブルー水素と呼ばれます)。
その水素で化石燃料を代替できれば、CO2を発生しないエネルギー循環が実現可能になります。よって、コストやエネルギー効率、インフラ面などの課題は残りますが、水素は脱炭素社会に動き出した世界が注目する物質の1つとして浮上しているのです。