はじめに

一転した米国のスタンス

各国がCBAMに対する方針を明確化させていく中、足元で大きくスタンスを転換させたのが米国です。

今年1月に就任したバイデン米大統領は、昨年の大統領選時の公約としてCBAMの導入を掲げていました。また、今月上旬に米通商代表部(USTR)が公表した通商政策報告書においても、今年の通商政策の方針の一つとしてCBAMの導入を検討することが盛り込まれました。そのため、これまでEUでは、CBAMの導入において米国との協調を期待する向きが強まっていました。

こうした状況に変化が生じたのは、今月の中旬です。欧州での外遊を終えたケリー米大統領特使(気候変動担当)が、英メディアのインタビューにおいて、CBAMは気候変動対策の「最後の手段」であり、EUは11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)まで法制化を進めるべきではないと、EUのCBAM導入に対して否定的な見解を示しました。

これまでと一転したメッセージが発せられた背景には、米国国内における気候変動対策強化の困難さがあります。基本的にCBAMを導入するためには、炭素税等により国内の排出主体に対しても排出負担を課す仕組みがなければなりません。しかしながら、炭素税等の厳しい排出削減策には、共和党だけでなく与党である民主党内からも反対する声が上がっているため、米国で実際に導入することは難しいとみられています。

WTOでの議論と4月に控える首脳気候サミットに注目

3月に、WTOにおいて「貿易と環境の持続可能性に関する構造化ディスカッション」の第1回目の会議が開かれました。今後、この場において、CBAMを巡る議論が本格化するとみられています。

このディスカッションにおけるCBAMに関する論点の整理が、将来各国がCBAMを導入する際の制度設計に大きく影響する可能性があるとみられるため、議論の動向を注視していく必要があります。

また、4月に開催予定の「首脳気候サミット」も注目されます。このサミットは、気候変動問題に対する各国のコミットメントの強化を目指すバイデン米大統領が主催する会合で、温室効果ガスの主要排出国の首脳らが集います。この会合において、CBAMが議題の一つとしてあがる可能性は相応に高いとみられます。

CBAMの導入に反対する国が少なくない中、仮にCBAMとWTOルールとの整合性の問題を解決できたとしても、CBAM導入が反対国による報復関税措置を引き起こす可能性も否定できません。こうした事態を回避するためには、CBAMを推進するEUと反対する国々との間での綿密なコミュニケーションが必要となります。

サミットでの国家間の対話を通じて、CBAMに関する国際的な合意の形成に向けた一定の方向性が示されるかが注目されます。

<文:エコノミスト 枝村嘉仁>

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