はじめに

きっかけは米大手テレビ局の増資発表

異変が起こったのは3月23日です。この日、アルケゴスが集中投資していたと言われている米大手テレビ局会社が増資を発表して株価が下落し、アルケゴスが多額の損失をこうむりました。

これを受け、アルケゴスから資金を回収できなくなることを懸念した米大手をはじめとした一部の証券会社が、トータルリターンスワップ契約の元でアルケゴスが保有していた中国インターネット検索大手や中国通販大手の株を大量に売却しました。これによりアルケゴスの損失はさらに膨らみました。

こうして、同じくトータルリターンスワップ契約を結んでいた欧州投資銀行や日本の証券会社はアルケゴスから資金を回収できなくなり、それが損失となりました。

単純化して言えば、事業に失敗して債務不履行に陥りそうな会社に貸し出しを行っていた金融機関が担保を売って資金回収を出来たかどうかと同様のシンプルな構図です。

今後は関連する金融規制強化に注目

今回、問題となったのはファミリーオフィスによるトータルリターンスワップです。

この契約下では株式の保有状況はアルケゴスではなく証券会社の名義となるため、外部からはアルケゴスが果たしてどれほどのリスクを抱えているのかが全く分かりませんでした。さらに、複数の証券会社と同様の契約を結ぶことで資金をさらに膨らませることが可能になります。

ファミリーオフィスの破綻は資産市場全体にとっては大きな影響はありませんが、銀行部門を傘下に持つ大手金融機関や大手証券会社に損失が波及すると金融システム全体のリスクとなりえます。アルケゴス問題を受けて今後はこうしたファミリーオフィスやトータルリターンスワップ契約への規制強化が予想されます。

米証券取引委員会(SEC)は、アルケゴス問題が金融市場に与える影響を重点的に調査しています。米商品先物取引委員会(CFTC)のダン・バーコビッツ委員は「アルケゴスの崩壊とそれに関連する多額の損失は、ファミリーオフィスが金融市場に大混乱を引き起こし得ることを鮮明にした」と規制強化に前向きな発言をしています。また、イエレン財務長官は、金融安定監視評議会 (FSOC)が投資ファンド規制専門のタスクフォースを復活させたと発表しています。

こうした動きは、金融市場の安定化という点では長期的には望ましいものです。しかし、トランプ政権と比べてバイデン政権は金融規制に積極的であり、さらに踏み込んでヘッジファンド全体への規制が強化されるようであれば、今後の株式市場にとってややネガティブと捉えられるおそれがあります。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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