はじめに

親しき仲にも“ゴール”あり

当然ながら、同僚の小野君であっても、仕事となれば事情は変わってきます。たとえば、業務中に次のように話しかけたら相手はどう思うでしょうか。

*シーン3* 田中君と同僚・小野君の職場での会話

田中君 「先日の会議は疲れたなぁ」
小野君 「大変だったね。お疲れさま」
田中君 「部長の大演説会を聞いているようなものだったんだ」
小野君 「いつもと同じ演説ね」
田中君 「明日もまた会議なんだ」
小野君 「それは仕事にならないね」
田中君 「資料作成もいっぱい溜まっているし」
小野君 「それは溜め込まないほうがいいよ」
田中君 「こんなときに限って、
      ハラスメント研修に参加しないといけないんだ」
小野君 「……。で、僕にどうしろって?」

小野君は、なぜイライラしているのでしょうか。もうおわかりですね。会話にゴールがないからです。田中君は部長の大演説会について文句を言っていますが、部長の大演説を止めさせるのは、そう簡単ではありません。

その一方で、小野君に「会議に代理で出席してほしいのか」「溜まっている資料作成を手伝ってほしいのか」「ハラスメント研修に代理で参加してほしいのか」、もしくは「単に愚痴を聞いてほしいのか」……不明です。

このような場合、何かお願いごとをすることもゴールですが、愚痴を聞いてもらって溜まったうっぷんを晴らすのもゴールです。もし、愚痴を聞いてもらってうっぷんを晴らしたいのであれば、そのゴールを最初に伝えておかないと相手はどうすればよいのか対応に困ってしまいます。

「ちょっと、愚痴を聞いてもらえるかな。いろいろあってうっぷんを晴らしたいんだ」とあらかじめ伝えておくと、相手はゴールがわかって安心できます。じっくり時間をとったほうがよいと思えば、「後でゆっくり聞かせてもらうね」などと返すことができ、その場でイライラすることもないでしょう。


ビジネスにはいま生産性や効率が求められる時代。あなたの説明を聞く相手は、多くの時間を割いてはくれません。そのためには、自分の言いたいことをきちんと整理し、わかりやすく伝えることが大切です。

著者プロフィール:久保⽥ 康司(くぼた やすし)
マネジメント・ラーニング代表取締役。2012年マネジメント・ラーニング設⽴、⼤企業から中⼩企業まで⼈材育成のコンサルティング、研修プログラムの開発、インストラクター養成、執筆や講師などを⾏なっている。ロジカルトランプ(商標登録)開発者。関⻄⼤学社会学部卒業後、1989年鐘紡⼊社、ファッション事業部で営業を10年経験。99年ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの運営会社ユー・エス・ジェイに開業メンバーとして参画し、マーケティング企画室マネジャーや近畿地区統括マネジャーを歴任。2005年より三井住友銀⾏グループのSMBCコンサルティングにて⼈材育成に携わる。関⻄学院⼤学⼤学院・商学研究科修了(MBA)。神⼾⼤学⼤学院・経営学研究科修了(MBA)。同志社⼤学⼤学院・総合政策科学研究科・博⼠課程後期課程修了(博⼠)。

使う! ロジカル・シンキング 久保田康司 著

使う! ロジカル・シンキング
上司への報告・連絡・相談や顧客への営業トーク、「自分が正しいと思っている目上の人」「ああ言えばこう言う人」「おかしな言い訳をする人」…への対処法など、ロジカル・シンキングのツールを仕事の武器として活かす方法をケース事例をもとに解説。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

この記事の感想を教えてください。