はじめに

障がいのある子を持つ親にとって悩ましいのは「親なきあと」のこと。相続対策にどのような準備が必要なのでしょうか。


障がいのある子どもの親にとって「親なきあとのために、この子にできる限りのことをしておいてあげたい」と思うのは当然のことです。

今回の相談者は、川田みちこさん(64歳)。ご家族は、長男(36歳)、知的障がいのある次男(34歳)です。ご主人は3年前に亡くなっています。長男は既に結婚し、自宅近くにマイホームを購入して暮らしています。みちこさんと次男は、ご主人が遺してくれた自宅に住んでいて、別にある貸駐車場の収益で生計を立てています。

遺された家族のためにと、ご主人は生前に遺言書を作成していました。家族3人で遺産分割協議(財産を分ける話し合いをすること)をしないで済むようにするためです。ご主人の遺言書は、「財産すべてを妻、みちこへ相続させる」という内容でした。この遺言書があったおかげで、スムーズにご主人の財産の承継が行われることになったのです。

判断能力が不十分な相続人の代理になる後見人とは?

もし遺言書がなく、相続人の中に今回の次男のように物事を判断することができない人(認知症も含む)がいるとします。そうすると、後見人を家庭裁判所に選任してもらい、その後見人が遺産分割協議に参加することになります。後見人とは、判断能力が不十分と考えられる人の代わりに財産や権利を守り本人を法的に支援する人です。

また、遺産分割協議が終わったあとも、次男が亡くなるまで後見人は次男の財産管理を続けることになるのです。この後見人は、家族が就けることもありますが、弁護士、司法書士などの専門家が就くことも多く、専門家が就くと次男が亡くなるまで報酬が発生します。2019年の日本人平均寿命は男性で81歳、次男は現在34歳、平均寿命まで生きるとするとあと47年。

47年間後見人へ報酬を支払わなければならなくなる点が、ご主人が後見人を就けることを避けたい理由でした。将来的に知的障がいのある次男に後見人が就くことになったとしても、その期間をできるだけ短くしたいという、ご主人の想いが遺言書によって叶う形になりました。

みちこさんが作成した遺言書の落とし穴

みちこさんもご主人が遺言書を書いたように、自分も遺言書を作成しようと考えていました。次のような内容です。

「私にもしものことがあれば、次男が一人で自宅に住み続けることが難しくなるだろう。幸いにも近くに住んでいる長男家族は、次男の面倒を見ることには協力的だ。

ならば、自宅は長男に相続させ、売却を含め今後について検討してもらうようにしよう。貸駐車場は、安定的な収入が見込まれる。生活資金として使えるように次男に相続させよう。そして預貯金はすべて長男へ。

次男が預貯金を相続しても管理ができないだろうし、次男の障害年金はほとんど使用せず次男名義の定期預金として残している。貸駐車場の収入を考えると、次男には十分な資金があるだろう。」

障がいのある子どもがいる家庭では、財産の残し方について同じように考える人も多いのではないでしょうか。しかし、この財産の遺し方にはリスクが潜んでいます。