はじめに
オンライン証券会社の最大手である「SBI証券」が一日あたり10万円以下の国内株式の売買手数料をゼロにすると発表しました。これまでも手数料はさほど高いわけではなく、税込103円だったのですが、それを無料にするというのです。
この戦略の裏にはオンライン証券会社にとっての「次の市場」が見え隠れしています。詳しく解説してみましょう。
業界勢力図からSBI証券を見る
SBI証券は9月から、1日あたり10万円以下の株式売買の手数料を無料にすると発表しました。経済ニュースのなかでは、とくに目立たない記事だったのですが、その背景にある戦略を考えるとおもしろいことがわかります。少し掘り下げて、その意味をお伝えしたいと思います。
1999年前後に次々と誕生し、競争を始めたオンライン証券会社ですが、ここ数年で見ると勢力図はほぼ定まってきたようです。
売買代金シェアで見ても、口座開設数で見ても、SBI証券が圧倒的に大きい存在となっています。売買代金では市場全体のシェア35%を保ち、2位の楽天証券以下を2倍以上の規模で引き離しています。
SBIホールディングスの直近、2017年3月期の営業収益は2619億円、純利益が325億円と高収益体質でよいかたちで事業を運営していることがわかります。
一方で国内最大手、野村ホールディングスの業績を見ると、売上高は1.7兆円、純利益は2396億円とケタが違います。
実は企業規模で見ると野村証券、大和証券、三菱UFJ証券の3大証券はSBI証券にとって簡単に手の届く存在ではありません。それは一体どういうことなのでしょうか?
市場での住み分けがはっきり
いわゆるネット証券の対極にある店舗型の証券会社は、「ネット証券が興隆するにつれて苦しくなる」と言われてきました。しかし実際に苦しくなったのは中小のいわゆる地場証券で、大手3社はずっと生き残り続けています。
その理由は、戦っている主戦場がネット証券とはまったく違うからです。
野村、大和、三菱UFJの3大証券の主戦場は発行市場、法人市場と富裕層市場にあります。発行市場というのは大企業が資金調達を行うのを手伝う仕事、法人市場は年金や保険会社など大規模な機関投資家を相手にした仕事で、どちらもネット証券の強みはそれほど活きません。
また富裕層市場は個人の投資家相手でも、ネット証券のようにそれほど頻繁な売買が発生しません。投資家としても3大証券の優れたアナリストの情報を参考にしたうえで、じっくりと保有する証券を選びたいというニーズが強いため、価格の安さだけではない要素がものを言うのです。
競争相手は3大証券ではない
こうして発行市場や法人市場において3大証券の優位は動かず、個人の富裕層を相手にした場合も3大証券がやや有利。一方で個人の一般層に対しては、手軽さと手数料の安さでネット証券が優位という勢力図が定まり、今では3大証券とネット証券は「違うビジネスをしている」という住み分けがはっきりしてきました。
一点だけ補足しておくと、SBI証券はこの3大証券が支配する発行市場に食い込もうとがんばっています。
IPO(新規株式公開)での販売力はけっこう高いという特徴はあるのですが、それでも野村ホールディングスとSBIホールディングスの営業収益がヒト桁違うという事実が両社の歴然たる実力差を表しています。
さて、3大証券とネット証券との住み分けという意味において勢力図は安定しているのですが、今、ネット証券のなかで少しだけ異変が起きています。楽天証券がじりじりとSBI証券に近づき始めているのです。これはどういうことでしょうか?