はじめに

5月20~21日に、主要7カ国(G7)の気候・環境相によるオンライン会合が開催されました。共同声明では、温室効果ガス排出量が多い石炭火力発電事業に対して、各国政府による新たな資金支援を原則停止する方針が示されました。

気候変動を巡る各国の議論に大きな注目が集まった今回のサミットですが、「2030年までに世界の陸地及び海洋の30%を保全する」という生物多様性に関するコミットメントも併せて示されたことをご存知でしょうか。

日本では、気候変動と比べると、生物多様性を巡る議論への一般的な関心度は必ずしも高くはないとみられます。しかし世界では、気候変動と並ぶESGの注目分野となりつつあります。今回は、その背景を整理したいと思います。


生物多様性が経済に及ぼす影響

近年、生物多様性への関心が高まりつつある背景として、生物多様性の喪失によって経済へ悪影響が及ぶリスクに対する認識が深まってきたことが挙げられます。

今回のサミットの声明文でも触れられた、世界経済フォーラム(WEF)の「自然リスクの台頭(Nature Risk Rising)」というレポートでは、多岐にわたる産業とサプライチェーンの分析の結果、2019年の世界のGDPの半分以上に匹敵する約44兆米ドル相当の経済価値が、生態系サービス(豊かな生態系が人類にもたらす便益)に依存する産業から創出されており、生物多様性の喪失による潜在的なリスクに晒されていることが報告されました。

影響を受ける産業の例として製薬業界が挙げられます。これまで様々な医薬品の開発に、自然の植物由来の成分が活用されてきました。もし森林の伐採等により未研究の植物が絶滅してしまうと、製薬業界にとっては、将来的な新薬開発(=収益獲得)の機会を失うことに繋がります。

同フォーラムが年次で公表している「グローバルリスク報告書」の2021年版においても、「生物多様性の喪失」は、今後10年間で最も起きる可能性が高く、かつ最も影響が大きいリスクのトップ5の一つとして挙げられています。こうした中、生物多様性の問題は、経済の観点からも気候変動と並ぶ重要な問題として、注目を集めつつあります。

生物多様性を巡る国際的な議論

生物多様性を巡る国際的な取り組みが勢いを増す契機となったのは、1992年に採択された「生物多様性条約(CBD)」です。ラムサール条約などの特定の地域・種の保全を目的とした条約と異なり、CBDは包括的な生物多様性の保全を目的としている点や持続可能な利用について定めた点で画期的でした。現在は約200の国と地域が加盟しており、生物多様性に関する最大の国際的な枠組みとして位置づけられます。

締約国が生物多様性の取り組みを進める上での国際的な目標となってきたのが、CBDの第10回締約国会議(COP10)で採択された「戦略計画2011-2020」です。この計画に基づき、締約国は、2050年までに「自然と共生する世界」を実現するという「ビジョン」のもと、2020年までに生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施するという「ミッション」及び20の個別目標の達成が求められました。

今年10月に中国の昆明で開催が予定されるCOP15では、この戦略計画の替わりとなる新たな目標、「ポスト2020・世界生物多様性フレームワーク」が議論される予定です。

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