はじめに

「人生100年時代」を迎えて、私たちはリタイア後に充実した人生を送っていけるかが大きなテーマとなっています。その解決策に“人間とは誕生から死まで生涯をかけて発達する存在である”という生涯発達に関する理論が注目されています。平たく言えば、ヒトが衰えてゆくことに価値を見つけて衰退もむしろ発達ととらえようという考え方です。

代表的な理論に米国の発達心理学者として知られるエリクソンが唱えるライフサイクル論があります。人間の生涯を乳児期、幼児前期、遊戯期、学童期、青年期、初期成人期、壮年期、老年期の8つの段階に分類して、それぞれのステージでヒトはどのような特徴を持って、どのような課題に向けた行動をしていけば、次のステージに向けて有意義で幸福な生活ができるというものです。

少々、前置きが長くなってしまいました。今回、取り上げたいのはヒトではなく会社のライフサイクルについてです。ヒトと同じように企業の評価をする上でライフサイクルは重要です。株式投資先の銘柄選別に企業のライフサイクル(誕生から衰退までの過程)をどのように活用したらよいのか、検証してみました。


企業のライフサイクル5段階

企業のライフサイクルの理論ではライフステージを5つの段階とする方法が一般的です。5段階とは、【1】創業期、【2】成長期、【3】成熟期、【4】変革期と【5】衰退期になります。これらの5段階を簡単にイメージしてみましょう。

企業のスタートは【1】創業期から始まります。次に、事業が順調に拡大する過程が【2】成長期。そして、成長していた企業も【3】成熟期に入ります。成熟期では例えば成長期に見られたような売り上げの急増は止まりますが、事業が安定することで費用を抑えて利益を確保していきます。企業が販売する主力製品が時代遅れになってくると、【4】変革期を迎えます。企業にとって事業を変えていかないと生き残れなくなります。そうした事業転換が失敗すると【5】衰退期に入ります。

注意点としては、これらの5段階は【1】創業期から【5】衰退期に向かって順序良く進んでいくとは限りません。【4】変革期で、別の成長事業への転換が上手く行けば、売り上げが増加して再び【2】成長期入りする企業もあります。また【2】成長期から事業が失敗すれば一気に【5】衰退期に突入してしまうこともあります。

例えば、流行りのIT企業といえば【2】成長期がイメージできるでしょう。しかし成長事業には多くの企業が参入してきます、そうすると主力の分野で競争が激化して販売数量が落ち込んでくれば【4】変革期を迎えてしまいます。
ですから企業がこれらの5段階のどこに位置しているのかを適切に判断することは難しいです。

企業ライフサイクルの見分け方

米国の学者ディキンソン博士は2011年に企業が5つのどのステージにいるのかを簡単に判断する方法を発表しました。このディキンソンモデルは企業側が毎年1回行う本決算で公表される3つの値に着目しています。

日本の多くの企業は3月末が本決算期末となり、4月中旬あたりから決算発表がなされます。そこで公表される決算短信に掲載されているキャッシュフロー計算書のなかから、(1)営業活動によるキャッシュ・フロー、(2)投資活動によるキャッシュ・フロー、(3)財務活動によるキャッシュ・フローの3つのキャッシュフロー(以後、CF)がプラスかマイナスかの符号のみに注目して判断するモデルです。

それぞれのCFは企業がどのような趣旨でお金を得たか、それとも失ったかを見ています。例えば、企業がモノを売ってお金を得たらその分は営業CFを得たことになり、プラスとなります。一方、会社が設備を増やそうとしてお金を使うと会社のお金が減ることになるので、投資CFはその分マイナスとなります。

財務CFに関しては例えば、銀行から融資を受ければ会社にお金が入ってくるので、財務CFはその分プラスになります。毎年度の1年間で会社がこのような活動すると、3つのCFはそれぞれプラスになることもあるし、マイナスになることもあります。ディキンソンモデルはそれらの符号だけに注目して判断するのです。

図表「5つの成長ステージの分類」の一番左側の列を見てみましょう。これは営業CFと投資CFがマイナス、そして財務CFのみがプラスだったら【1】創業期の企業と判断されるわけです。【1】創業期は、期待される将来の潜在市場は大きくても、販売はそこまで進まず、一方で商品の仕入れや従業員への給料支払いから出費するため営業CFはマイナスの傾向です。また大規模な投資を行うことから投資CFがマイナスとなり、その資金を銀行から借り入れるため財務CFはプラスとなります。

【2】成長期は営業活動が軌道に乗ることで営業CFはプラスに転換します。投資するため投資CFはマイナス財務CFはプラスです。
その他の段階は図表にある通りなのですが、実はここまで説明してきた【1】創業期と【2】成長期の企業を探すことは、株式投資をする上でもとても大切です。