はじめに
ビールの原価は思ったよりも高い
ビールの安売り規制が始まったとたん、ビールの店頭価格は上昇しました。この夏、消費者物価指数は前年と比較して0.5%も上昇しているのですが、ビールの価格上昇がこの物価指数上昇に大きく寄与したと言われるほどです。
7月に入ってビールの店頭価格はそこから1%下がりましたが、1割上がって1%下がったということで、ビール価格の高い水準はあいかわらず維持されています。
この状態に困ったのが大手飲食チェーンです。ご存知の方も多いかもしれませんが、外食チェーンにとってビールは原価率が高い商品です。これは値上げ前の話ですがビールをジョッキ一杯分販売すると、仕入れ原価はだいたい150円くらいになるといいます。
一方でチューハイやハイボールといったお酒は同じジョッキでも原価は50円と、全く儲けの幅が違います。よって、ビールの原価が値上げになれば、原価ぎりぎりの売値でやっている飲食店としては値上げせざるを得ないというわけです。
そこで思い出していただきたいのですが、日高屋の値上げ幅はビールが20円に対してハイボールは10円。値上げ後の価格もビール330円に対してハイボールやチューハイは280円とお得感の違いを出しています。つまり、お店としてはビールよりもビール以外のお酒を売りたいというメカニズムが働いているのです。
嗜好品は値上げをすると需要が下がる傾向
さてビールの安売り規制、居酒屋の値上げときて最後は「それで景気はよくなるのか、それとも悪くなるのか?」という話を検討してみましょう。
ビール各社、この夏の売上は厳しいようです。7月までは猛暑で「今年の夏は行ける」と思っていたようですが、8月上旬に長雨が続いたことが響き、上期のここまでの販売数量が前年同期比で1割落ち込んだというニュースがあります。
リベートが抑制されたことでビール販売にかかわる経費も大きく減った(メーカー用語で言えばネット販売単価が値上げできた)はずですが、1割値上げして1割販売量が減少したのだとしたら計算上の売上高はプラスマイナスゼロです。
これは経済学でいう「価格弾力性」というものです。生活必需品は値上げしても売上は増えますが、ビールのような嗜好品は値上げをすると需要の方が大きく下がり、結局売上は減少するという現象が起きるようです。まだメーカー各社の業績数値が出てくるのはこれからですが、商戦期の夏が終わればビールの売上はプラスマイナスゼロではなく、悪い方向に動いていく可能性はあると思います。
この夏、つぎつぎと起きた外食チェーンの値上げ発表。市場原理で起きた人件費などの要因は仕方がないことですが、ビールの安売り規制による官製値上げが、長い目で見て外食産業の売上高を減らし、景気を悪い方向に持って行かなければいいと思います。これからの動向が気になるニュースです。