はじめに
今、経済で何が起きているかを把握し、先行きを見通さなければならない場面は、資産運用をしている人はもちろん、そうでない人にとっても、結構多いと思います。そうした時は、自分が拠り所とする材料を持っていて、自信をもって判断できるかどうかが重要でしょう。
そうした時に役に立つ「調査」を2つ、これまでも何度も私の判断材料として記事の中で使用してきましたが、改めてご紹介したいと思います。
速報性に優れた景気指標「景気ウォッチャー調査」
まず、内閣府の「景気ウォッチャー調査」を挙げたいと思います。「把えどころのない世間の景気実感」を、地域と分野・業種という二つの切り口から適格に把えるこの調査は、調査時点が前月25日から月末で、結果発表が原則翌月の第6営業日という速報性に優れた景気指標です。早い月は8日に前月の結果が出ます。
2000年から始まった「景気ウォッチャー調査」の景気の局面変化の把握は早く的確でした。2001年9月米国で同時多発テロ事件が起きました。同年の年末時点では、翌2002年は「世界同時不況だ」という意見が多く2002年1月が景気の谷になる兆しは、「日銀短観」などのビジネスサーベイにも出ていませんでした。唯一「景気ウォッチャー調査」が2001年11月調査時点で景気底打ちの兆しをキャッチしていました。
また、2011年3月の東日本大震災の時には、「景気ウォッチャー調査」では、地震発生月である3月調査での東北地方の回答率が91.4%と高水準を維持しました。景気ウォッチャーの方々の使命感が感じられた数字でした。その後、6月調査で明確に改善の動きが出て、発表日の7月8日には景気後退が回避されたことがわかったのです。他の統計には真似が出来ない最速の、判断材料になりました。
最近の2021年11月調査では、新型コロナウイルスのオミクロン型変異株の影響もいち早く把握した調査になりました。日本国内では感染者数が急減しコロナ禍に対し安心感が出ていたところ、調査期間中の11月26日に、WHOが南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株を「懸念される変異株」に指定し、オミクロン型と命名したのです。特徴として、感染力がデルタ型よりも強く、ワクチンが効きにくい可能性が報道されました。新たな不安材料が出現したのです。
「景気ウォッチャー調査」のDI(ディフュージョン・インデックス:現状判断と先行き判断がある)は「良」から「悪」までの5段階の回答を1~0まで0.25刻みで点数化し、回答数で加重平均するシンプルなものです。注目される事象に関するコメントから算出する関連DIを誰でも簡単に作ることが出来ます。なお、内閣府の公表資料には、わかりやすいように「良くなっている:◎」「やや良くなっている:○」「変わらない:□」「やや悪くなっている:▲」「悪くなっている:×」の記号が使用されています。
11月の「景気ウォッチャー調査」は、現状判断DIが56.3と前月比0.8ポイント上昇しました。新型コロナウイルスの感染が落ち着いたことで、3カ月連続改善し、2005年12月(57.5)に次ぐ過去2番目の高水準になりました。但し、10月に前月比12.9ポイント上昇し、56.6と、2013年11月(57.6)以来の高水準となった先行き判断DIが、11月には4.1ポイント低下の53.4になりました。
11月調査で「新型コロナウイルス」というコメントをした回答だけを使って「新型コロナウイルス」関連DIをつくると現状判断は63.3とこの言葉が初めて登場した2020年1月調査以降最高になりましたが、一方で、先行き判断では56.5と最高だった10月の61.4から鈍化しました。
そこで、オミクロン型を意味する「新変異株」というコメントをした回答数は現状判断では10人だけで関連DIをつくると52.5でしたが、先行き判断では168人と3ケタの回答数で、関連DIは46.5と「悪い」超を意味する50割れになりました。大幅な悪化要因ではないものの、「新変異株」が先行き判断の不透明材料となっていることが確認できました。