はじめに
株安が止まりません。市場はいったい何に怯えているのでしょうか。ぱっと思いつく答えは、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げが警戒されているというものでしょう。しかし、そんな単純なことが株安の本当の理由であるとは思えません。
<写真:AFP/アフロ>
なぜ株価が下がり続けているのか
実は、利上げそのもので株高が崩れたことはないからです。その経験則を投資家は学習済みでしょう。米国市場には“three steps and a stumble rule”という法則があります(NASDAQの用語集にも載っています)。利上げは3回目までなら大丈夫だが、そのあとは躓く、という意味です。ところが実際のマーケットは3回どころか、もっと多くの利上げに耐えてきました。
2004年から2006年にかけて、FRBはFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催する毎に17回連続で政策金利を引き上げましたがS&P500はほぼ右肩上がりに推移しました。2016年から2018年にかけての利上げサイクルでもS&P500は利上げ局面の終盤になってようやく調整を入れたましが、それまで8回の利上げに耐えて上昇を続けたのです。
市場が恐れているのが利上げそのものではないとすればなんでしょうか。QT(量的引き締め)でしょうか。さらに言えば、利上げやQTのタイミングやペースが非常にタカ派的になり、景気を過度に冷やす「オーバーキル」を恐れているのでしょうか。
本当のところは分かりませんが、おそらくそのどれもが答えなのでしょう。つまり、投資家の見方が錯綜し、コンセンサスが得られていないということが株価がなかなか底を入れない理由なのだと思います。マーケットにとっての真のリスクは「わからないこと」です。
年初から下げのピッチを速めた株式相場の下落は、「FOMCを警戒」と言われることが多くありました。今週開催されたFOMCで金融引き締めについてどんなメッセージが打ち出されるか市場は戦々恐々として株を手放していると解説されていました。そうであれば、FOMCを通過したなら下げ止まってもよいはずです。
しかし、実際にはFOMC終了直後の27日の東京株式市場では日経平均が一時900円を超える大暴落となりました。なぜならFOMCを終えても、肝心のFRBの金融政策に関する手掛かりが何も得られなかったからです。まさにマーケットにとってのリスク「わからない」という状況がこの先も続く、ということに対する失望売りであると思われます。
あとは市場心理が落ち着くのを待つだけ
この急落劇がどこで止まるか、ピンポイントの予想は難しいですが、そろそろいいところに来ていると思います。というのも、ファンダメンタルズでは十分調整したと考えられ、あとは市場心理が落ち着くのを待つだけだからです。
冒頭で、過去にFRBが利上げを続けても株高が崩れなかったか例を出しましたが、その背景は、長期金利がそれほど上昇せずに安定していたからです。株式相場にとって重要なのは長期金利なのです。特に長期金利と株式益回りの差(イールドスプレッド)が重要です。
イールドスプレッドが縮小すれば、債券利回りに比べて株価が割高だということになります。実際、イールドスプレッドが縮小することで大きな調整が起きたことは過去に何度もあります。ところが、いまはまだイールドスプレッドはそれほど縮小していません。
特に直近ではS&P500の予想PER(ブルームバーグ12カ月先予想)が2020年春のコロナショック暴落以来、初めて20倍を割り込む水準まで調整しました。これによってPERの逆数である株式益利回りは上昇しました。ざっくり言えば、長期金利が仮に2%まで上昇したとしても米国株はフェアバリューを維持できます。