はじめに

パターン2「不動産を購入したとき」

不動産は、相続が起こった際に分けにくい財産として上位にあがります。不動産を購入したばかりの時はとくに、預貯金をあまりお持ちでないことも考えられます。

例えば不動産を購入した本人(父)が亡くなったとき、相続人は母と、成人した子2人(長女・長男)とします。父の財産は6,000万円(不動産:5,000万円、預貯金:1,000万円)とすると、法定相続分は、母が2分の1の3,000万円、長男が4分の1の1,500万円、長女が4分の1の1,500万円となります。

不動産(家)には父と母が住んでおり、父が亡くなって母が一人で住むことになった場合、不動産は母へ引き継いだほうが都合がよいことになります。すると、5,000万円の価値の不動産を母が相続し、預貯金1,000万円を子で500万円ずつ相続するパターンが考えられます。この場合、子へ渡る財産は法定相続分を下回ることになるため、遺産分割協議の話し合いでうまくまとまればよいのですが、誰かが同意しなければ何も進みません。

話をまとめるために不動産を3人共有で持つということも考えられますが、そうすると不動産を売却等する際に、3人全員の同意がなければ進まなくなります。何事も話し合いをしないと進まないことを避けるために、住んでいる、または管理する人に不動産を相続させる内容の遺言書を作成しておくことをお勧めします。

相続の話題が出ると、「うちの財産は、預金が少しと住んでいる家だから、相続のことは考えなくても大丈夫」と、おっしゃる方が多くいます。しかし、そのような場合がいちばん、争いになる可能性を秘めているとも言えるのです。

パターン3「会社経営者の自社株等の財産」

ご自身で事業を始めた、もしくは親からの事業を引き継いだ等々の2代目、3代目経営者の方々は、会社の株式(自社株)をお持ちだと思います。この自社株も、不動産と同じく分けにくい財産に含まれます。

会社が成長すると自社株の評価額も上昇します。また、個人財産の中に、自由になる財産はさほどお持ちでなくても、個人名義の不動産を会社に賃貸していたり、会社に対する貸付金等、会社経営に関する財産が占めている割合が高い方がいらっしゃいます。相続が起こった際に上記のような財産がある場合、財産の分け方に苦労することも多く見受けられるのです。

自社株などの配分に要注意

何も対策をせずに会社経営者が亡くなると、個人名義の財産は相続人で遺産分割協議することになります。会社経営に関する財産、主には自社株が後継者以外の相続人へ分散してしまっては会社の存続にもかかわることにもなりかねません。

相続で自社株を引き継ぐことができない第三者が後継者だとすると、生前に贈与または売買するか、自社株を遺贈する遺言書を作成しなければ、後継者に引き継ぐことができません。そのほかの会社財産に関しても同じことが言えます。

会社経営に関する財産といえども、個人の財産が後継者に渡ると、その分、相続人へ遺される財産が減少することになります。ただ遺言書を作成して自社株等を後継者へ渡すだけではなく、経営にかかわっていない相続人へ配慮することも必要になってきます。

遺言書が無かった時のリスクを考えて、それを避けるために「とりあえず遺言書」を作成しておくことは必要です。状況や想いが変わった時に書き直すこともできますので、一度専門家に相談してみてください。

行政書士:藤井利江子

この記事の感想を教えてください。