はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
家の事情で祖母の養子となりました。まだ祖母は健在ですが、今後のことを考えて相続についても把握したいと思っております。法定相続人は叔母(奈良在住)、母(富山在住)、私(東京在住)の3人で金融資産については把握をしておりませんが、富山に築60年近い一軒家、アパートの不動産を所有しております。
【相続について】
個人的には土地やアパートを利用して不動産投資を考えておりますが、叔母や母とどのように話を進めていけばよいでしょうか。また相続税が増税される前に生前贈与等をするにあたって、どのようなメリットがありますか。
【不動産投資について】
可能であれば、不労所得のみで生活ができるようになればと考えており、不動産投資に興味があります。現在、現金はないですが、株等に100万円ほど投資をしております。どのタイミングで、どのように不動産投資をしていくべきでしょうか。
【投資全般について】
今後、節税を大きくできるようにしたいと考えており、私の家計等から節税をどのようにしていくべきでしょうか。
(20代後半 既婚・子供なし 男性)
野瀬 :土地の贈与については一筋縄ではいきません。理由はシンプルで、その「評価」が難しいからです。
贈与よりも相続にした方がいいことも
値段が一目瞭然の現金や預金ならよいのですが、土地などの不動産や上場していない株式は「いくらかなのか」の判定が難しいので、よほど入念に準備してからでないと、あとから問題なるケースがあるのです。
さらに贈与税を低く抑える、場合によってはゼロにするためには、1年間で贈与する金額を一定額以内に抑える必要があります(ゼロにするには110万以下)。
そして、株なら小さい単位にして贈与することができるのですが、土地の場合は小さく分割するためには「分筆」という作業が必要になります。
この「分筆」はタダではできません。土地家屋調査士や司法書士にお願いして、測量はもちろん登記を済ませる必要があります。そうなると、そのコストだけで1回数十万円になりますので「贈与でお得!」というかたちにはなりにくいのです。
さらに不動産には「小規模宅地の特例」というものがありまして、普通の自宅としての一戸建て程度であれば贈与税ではなく、相続税が大部分減額されます。
「住むための家」は必要なものなので、それに税金をかけるのはかわいそうということで、こういった制度があります。この制度は贈与ではなく相続の場合にのみ適用されます。
こう考えると「分割して贈与してお得!」というのは、相談者のような不動産の場合、あまり該当しないようです。家の事情、つまり相続でおばあさまの養子になったと推測されますので、おそらく結構な額の金融資産があるのだと思われます。
贈与に関しましては、まずはそちらのほうから進められることをおすすめします。
不動産投資を成功させるのに必要なこと
私も不動産投資をしているのですが、成功の要素を2つに絞ると以下の2点が大切になります。
(1)安く買えるか
(2)低い金利のローンが組めるか
どんなに古い物件でも、安くさえ買えれば貸料を落とすことで客付けできますし、30年ローンを組む可能性もある不動産投資の場合、金利は非常に大きなインパクトがあるからです。
では、この2つの条件をクリアするための方法を一緒に考えてみましょう。
(1)どうやって安く買うか
これは私が実際にやっている方法なのですが、その方法は「じっと待つ」という方法です。
ロケーション、想定利回り、客付けのよさなどの要素から「これ!」という物件をあらかじめ3つほど探しておき、「利回り」を計算。そして自分の納得する利回りが得られる価格を計算し、不動産屋さんに「この物件がこの価格で出たら買うから、僕に一番に連絡ください」と伝えておくのです。
こうすることで、その物件が安い値段で出たときに広告に出す前に、つまり誰かに先を越される前に不動産屋さんに教えてもらえるのです。
そう考えると、今この時期はあまり不動産投資には向かないかもしれませんね。潤沢な資金があるのであれば話は別ですが、株が値上がりしたことで不動産にもお金が流れ込んでいる今は、不動産価格が実態よりも少し高くなっている気がします。
こういうときは、しっかり狙いを定める物件を探して、半年や1年、場合によっては2年ぐらいじっくり「焦らず」待つのがよいでしょう。
(2)どうやって金利を下げるのか
これは物件を安く買うよりも難しいです。
なぜならこれは自分の収入が安定しているかどうかによって左右されるので、勤務先、年収、勤続年数などの評価を上げる必要があるからです。公務員の方や大企業の方であればよいですが、これらの評価を上げるのはなかなか難しいです。
(1)でもお話したように、今は少し不動産が割高ですので、こういうときはこれらの属性をあげることに専念するときなのかもしれません。となると、なにをするべきか……結局こういう時期は「仕事をがんばる」となってしまいます。
がんばってお給料を上げて、頭金を貯める……地味なように聞こえますが、こういう地道な行動が10年20年続く不動産投資においてボディーブローのように効くのです。
不動産投資で節税をするには
「節税」という点で考えると、不動産投資は比較的コントロールがしやすい投資ではあります。なぜなら不動産については「総合課税」という仕組みが利用できるからです。
総合課税とはいわゆる「給料」と合算して税金を計算できるもので、不動産投資での儲けは株式投資と異なり、この総合課税となります。
つまり、もし不動産投資で「損」をしたケースでは給料と合算することにより、トータルの税額を小さくすることができるのです。
また実質的に「損」をしなくても、かなり古い中古物件をあえて購入することにより「減価償却」というお金が減らない形で損を出し節税が可能となります。
また、先ほどの質問でもありましたように、将来的に不動産投資のみで生計を立てたいのであれば、節税だけではなくて積極的に納税して「うちは儲かってる投資家です」とアピールすることも大切です。そうしないと新しい物件を買うときにローンが組めなくなるからです。
サラリーマン投資家の副業レベルだと、確定申告等は自分でできるのですが、長い目で売却や減価償却、そしてどんどんローンを組むことなども視野にいれると税務の知識を持っている人のアドバイスというのは必須ですので、不動産に強い税理士に相談するのがよいでしょう。
ただ税理士も医者と同じで、人によって得意不得意な分野がありますので、同業者(この場合不動産投資家や大家さん)によい税理士を紹介してもらうとよいでしょう。