はじめに

まったり町中華が生き残る理由

最後に、どこにでもありそうな町中華について考えてみましょう。こういう店は人気ラーメン屋のような混雑はなく、行列ができることもほぼありません。これまでに検討した種類の店よりも明らかに来客が少なくても、つぶれていない店が身近にもあると思います。

町中華のラーメンは、鶏や煮干を使った懐かしい1杯が多いです。素材もごく普通に手に入るものばかりで、原価率は低く抑えられているはずです。

鶏ガラは安く、豚骨と比べて加工の手間もかかりません。煮込み時間も短く抑えられます。1杯あたりの限界利益は、場合によっては二郎系より多いかもしれません。たまにフラッとこのような町中華に立ち寄ってみると、常連のおじいさんがビールを飲みながらテレビを見ていたりします。

実は、これが町中華の強みであり、店を続けていける大きな理由です。混雑するラーメン屋に行った経験を思い出してください。サイドメニューは少なく、お酒を長時間飲む人もいなかったはずです。混雑が前提の店では、滞在時間を長くするメニューは提供できません。

一方、空いている町中華は、だらだら飲んでもらうことが店にとってメリットです。

逆に考えれば、餃子やチャーハン、ビールを置いていない町中華はないでしょう。

具体的な数字で考えてみます。二郎系は1杯1000円で原価率40%、高級志向店は1杯1500円で原価率40%、町中華は1杯700円で原価率30%に加えて、原価率20%のおつまみと酒を1人2800円分頼むと想定します。

この場合、1人あたりの限界利益(=売上-変動費)は、二郎系が600円、高級志向店は900円、町中華は2730円です。

この前提では、町中華の1人は、二郎系の4人分、高級志向店の3人分以上の価値があることになります。

91ページより

このように比較すると、行列店が必ず儲かるとは限らないことがよくわかります。

飲食店に限らず、商売は薄利多売を目指すのか、少ない機会に利幅の大きい商品を売るのか、設計はそれぞれ異なります。ラーメン屋の例を、自分のビジネスに生かせるように、考えてみましょう。

著者プロフィール
石動 龍
1979年生まれ。青森県八戸市在住。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン店主。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年10月に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干ラーメンの研究。
著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。

会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる 石動 龍 著

会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる
儲けを出すための「管理会計の知識」と「お金の管理のしかた」を、税理士・公認会計士でありながらラーメン屋店主でもある著者が教える会計入門書。ラーメン屋や飲食店に限らず、起業を考えている人、およびすでに起業している人のほか、純粋に会計に興味のある社会人、学生などが読者対象です。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

この記事の感想を教えてください。