はじめに
いま、中高の数学教育が激変しています。たとえば幾何の立体を学ぶ単元では3Dプリンタを用いたり、生徒同士のディスカッションや探求を深める「教えない数学の授業」を取り入れている学校もあります。
それと時を同じくして、早稲田大学の看板でもある政経学部など、文系でも数学を必須とする私立大学が増えはじめたことにより、「私文(私立文系)なら数学を捨てられる」といった受験戦略が崩壊しました。
ここでは、激変する数学教育の今を追った宮本さおり氏のルポ『データサイエンスが求める「新しい数学力」』より、大学受験にまつわる箇所をピックアップして紹介します。
大学入試改革ショック
ロボットなどの技術革新とグローバル化を迎えた社会を背景に、大学入試にも大きな変化が起こっています。特に顕著になっているのが首都圏の難関大学における変化です。
各大学が行う入試をどのように変更するかは、それぞれの大学に委ねられており、これまでも小さな変化は起こっていました。しかし、2021年度の共通テスト導入など、全体的にインパクトを与える動きが最近いろいろと出てきたのです。
難関私立大学が合格者数を減らしてくるなど、いくつかの要因が重なり、ここ数年の大学入試は“入試改革ショック”と言えるような状況が続いてきました。いったいどういうことが起きていたのか、少し詳しく見てみましょう。
最近の大学受験において苦渋を飲んだのが2018年度と2019年度の入試に挑んだ生徒たちです。文科省が大学定員厳格化を促した通達を発端に、難関私立大学では合格者数を大幅に減らす動きがありました。また、2020年度入試まででセンター試験の廃止が決まっており、学生や保護者の中には大きな不安が生まれていました。浪人すれば新しい形式の入試に挑まなければならないことになるからです。
「基礎学力が安定していれば、問題形式が変わっても解けるはず」という声ももちろんわかります。しかし、基礎学力があったとしても、問題形式が変わるとなれば、それなりの訓練が必要です。バレーボールの練習をしてきたのに、試合の直前に出場競技がいきなりバスケットボールになりましたと言われたら、同じ球技とは言え、いくら運動神経の良い子でもパフォーマンスに差が出るのは当然でしょう。
同じくらいの状況が今回の入試改革だったと思います。スポーツで言えば、使う筋肉が違ったり、使い方が違ったりするのです。教育について、国が掲げる「育成を目指す資質・能力」というものがありますが、その柱の1つとして、「思考力、判断力、表現力」ということがより強く言われるようになりました。そして、センター試験と比べて共通テストはこれらの力がより求められる問題に変わったのです。