はじめに

欧米に依存する日本のメディア

世界の報道に関しても同様です。今も西側勢力と東側勢力、英仏米と中露は対立し、報道もその対立を反映しています。テレビのニュースも一方的な報道ばかりです。

日本の場合、多くは英米仏にべったりなので、内容や筋書きについては、欧米に依存する場合が多い。欧米で定評があるというだけで、『ニューヨーク・タイムズ』や『ロンドン・タイムズ』、『ル・モンド』といった主要新聞のストーリーをそのまま採用しています。

これらは、いずれも政治的立場を鮮明にしている新聞であって、その立場を理解したうえでの報道であれば、追随か同意かはともかくも、仲間ということでわかります。しかし、よくわからずに流しているのであれば、それはたんなる無知の垂れ流しです。

では、こうした西側メディアのニュースをチェックする時にどうすればいいか。ロシアや中国の報道を見るべきなのです。しかし、一般的にはそれは無理難題です。なぜなら、私たちの小学校、中学校、高等学校での外国語教育は英語だけであり、ロシア語や中国語、ましてアラブ語などは勉強をしていません。とはいえ、ロシアや中国の英語放送がありますから、せめてこういうものを観ておくことが必要です。

またこうした情報の受信とは逆に、日本で起こったことを海外にしっかりと伝えているのかという問題もあります。日本の政府やメディアなどがロシア語、中国語、フランス語、ドイツ語等の言語で日々発信しているかどうかということですが、これが実に弱い。

これは外国語力だけの問題ではなく、何を伝えるかという視点が不明確だからです。日本の情報を海外に伝えているのは、日本に来ている海外の特派員たちですが、彼らだけでは、彼らの立場から見たことだけしか伝わりません。アメリカの特派員はアメリカ人の視点、アメリカ的偏見が入ります。

世界史を知る意味

一番重要なのは、語学ではなく視点です。この視点を構成するのは、世界観であり、そしてそれは理論なのです。だから、日本人は世界観と理論を磨く必要があります。それがないと、海外には伝わらないのです。

私たちは世界観を身につけねばなりません。もちろん、世界を知ればおのずと世界観が身につくというものではなく、世界を見る方法(理論)を学ばねばならないということです。

世界を知るとは、自分たちの考えを相手にどう伝えるかということなのです。ものを書くことは畢竟(ひっきょう)、表現力です。私たちはこの表現力を欠いています。これからは、それではまずい。

今後、私たちは世界に対して物事を発信する必要があると同時に、世界がどう動いているかをなるべく自分の頭で正確に知らねばなりません。それが世界を知るということであり、当然ながら世界のこれまでの歴史を知ることです。そういう観点から、この世界史講義を進めていきたいのです。


的場昭弘(まとば あきひろ)
1952年生まれ。神奈川大学教授。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。マルクス研究の第一人者。社会思想史、マルクス経済学専攻。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『未来のプルードン』(亜紀書房)、『カール・マルクス入門』(作品社)、『最強の思考法「抽象化する力」の講義』(日本実業出版社)、『資本主義全史』(SB新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『いまこそ「社会主義」』(池上彰氏との共著・朝日新書)、『復権するマルクス』(佐藤優氏との共著・角川新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』『新訳 初期マルクス』『新訳 哲学の貧困』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)など多数。

世界史とは何か。世界を知るとはどういうことか

著者 的場昭弘

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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