はじめに

誰も住まない空き家が増えています。朽ち果てて、倒壊寸前という建物も目にする機会が多くなりました。自分には関係ない話だと思っていても、地方で暮らす両親が老いてくれば、近い将来実家をどうするのかという問題に直面する人は多いのではないでしょうか。頭では理解できても、住み慣れた家を手放すことは、親にとっても子どもにとっても、荷が重い仕事です。

「実家じまい」は、終活の一環として取り組むこともあれば、相続財産の処分として行うこともあります。今回は、それぞれのケースを踏まえて、事前に準備しておきたいことを考えていきましょう。


家族のかたちと空き家の現状

「実家じまい」とは、親が住んでいた実家を処分することです。家の所有者が亡くなって相続して処分する場合と、所有者が生きているうちに売る場合とがあります。近年は、都市部で暮らす人が増加し、核家族化も進んでいます。かつては、定年後は故郷に戻ることもありましたが、別の生活基盤があるので、実家に戻り住むという選択肢を選ぶ人が少なくなっています。また、高齢になれば自立して暮らすことにも限界があり、介護施設への入所や入院も増えているという背景があります。

5年ごとに行われる国土交通省の統計によれば、2018年は前回の調査から3.6%増え、空き家率は住宅全体の13.6%にのぼっています。(平成30年住宅・土地統計調査)

将来的には対策を講じても2033年に空き家率が17.9% にまで上昇するという予想もされています(「2030年の住宅市場と課題~空き家の短期的急増は回避できたものの、長期的な増加リスクは残る~」)。空き家になっても固定資産税や火災保険、光熱費をはじめとする維持費、雑草の処理、庭木の剪定などの費用もかかり続けます。そればかりか、換気などの管理ができないと建物が傷み、劣化が進みます。さらに人気のない環境は治安の悪化にもつながります。そのうえ維持費・管理費以外にも、実家との距離が離れていれば、出向くまでの時間や交通費にまで負担がおよびます。将来の展望を考えたときに利用する意向がなければ、忍びないけれども実家を処分せざるを得ないのが実情です。


国土交通省「平成30年住宅・土地統計調査」より引用

「実家じまい」はいつ行うほうがいい?

いつかは住んでいる家を何らかの形で処分しなければならないことは、誰もが承知のことでしょう。しかし、親の立場から「実家じまい」を始めるのは、難しいものがあります。住みなれた家には思い入れもあります。筆者の場合は、入所や入院しても義理の親に「家に帰りたい」と何度もせがまれた経験があります。

もし可能であれば、「実家じまい」をするのならば親御さんが元気なうちに始めるのが理想です。元気なうちに納得の上で家を処分すれば、中古住宅とし売却ができ、現金化できます。たとえばそのお金でマンションを購入したり、売却資金を老後資金や老人ホームの入居資金に使ったりするなどの選択肢もあります。しかし、認知症になってしまうと、不動産の売買契約がしにくくなり、有効な手段を講じることができません。

また、「実家じまい」を先延ばしにすればするほど、家を売却する難易度が上がる側面もあります。築年数が浅ければ、家にも価値が残っています。家の状態で相続して処分する場合には、建物としての価値が低くなり、古家付き土地として売却するか、更地にして売却するかという結果になってしまうこともあります。このような場合には、さらに解体費用が上乗せしてかかることになります。特に相続税がかかる場合には、納付期限があるため、足元を見られ安く買いたたかれることが多いようです。

家の中の荷物についても、生前整理と遺品整理では心理的な差が生じます。亡くなった後は、故人との思い出もあって、仕分けが辛いものになります。

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