はじめに

ただここにきて、新たな問題も出てきました。熱波と水不足です。記録的な高温が続く欧州では、約半分の地域が干ばつに見舞われています。欧州連合(EU)欧州委員会は最近出した報告書で「少なくとも過去500年で最悪の状況」と懸念を表明しました。ドイツでは日照りによる水位低下のためライン川で石炭輸送が停滞し、火力発電の稼働率低下が懸念されています。オランダでも同様の状況が起きています。フランスでは原発が半分しか稼働できません。定期検査などで停止が予定されていたところに、周辺の河川で水温の上昇と水位低下が起こり、原子炉冷却への水の使用制限を迫られているからです。

そこに米国の液化天然ガス(LNG)プラントの再稼働遅れも重なり、再び欧州のエネルギー供給に赤信号が点灯しています。さらに追い打ちをかけるように、ガスプロムは設備点検を理由に、「ノルドストリーム」の稼働を8月31日から3日間止めると発表しました。

こうしたことを背景に天然ガス価格は急騰しています。欧州市場では指標のオランダTTF(9月物)が1メガワット時あたり340ユーロ台に上昇。3月7日につけていた翌月物としての過去最高値(335ユーロ)を更新しました。

米国のCPI(消費者物価指数)は原油価格の下落に連動したガソリン価格の低下によってピークアウトの兆しが見られますが、欧州の消費者物価指数はその兆しが見えません。天然ガス価格の高騰はエネルギー価格の上昇を通じて欧州のインフレ率を高止まりさせるでしょう。

インフレとエネルギー不足によって欧州経済は苦境が予想されます。今後、冬の需要期に入ってロシアからの天然ガス供給がさらに絞られることになれば、計画停電の実施が避けられません。そうなれば工場の稼働は制限され生産が落ち込み、さらに景気が悪化する事態になります。インフレと景気悪化が同時進行するスタグフレーションとなる可能性が高まります。

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