はじめに
「デジタル給与払い」と「銀行口座振込払い」との違いは?
資金移動業者には、100万円超の送金ができる「第1種」、100万円以下の送金ができる「第2種」、5万円以下の少額決済ができる「第3種」の3つの分類に分かれています。
デジタル給与払いでは、第2種の100万円以下の送金を取り扱う事業者に限定しています。これに対し、今まで給与の支払い窓口になっていた銀行は、免許制で1000万円までの預金が保証されます。資金移動業の業者は登録制なので規制が緩くなるのではという心配の意見が出され、給与デジタル払いの対象として十分機能するように検討されています。
銀行振込とデジタル払いを比較してみましょう。
※図表:筆者作成
入金上限は、銀行口座ではありませんが、決済アプリ口座では100万円までになります。事業者が破綻したときの保証は、銀行では預金保険制度により1000万円までですが、決済アプリ口座では、口座残高の全額(100万円まで)となっています。
また、不正引き出しについては、労働者側が無過失の場合には銀行同様、全額補償します。さらに、給与を引き出す際のATM手数料は、銀行振込の場合自己負担ですが、デジタル給与では月1回は手数料なしで引き出せるように要望しています。
デジタル給与払いのメリット・デメリットは?
デジタル給与払いには以下のようなメリットがあります。
労働者側は、デジタル給与払いにより、チャージをしなくても決済サービスをすぐに利用できるメリットがあります。企業の福利厚生の一環とすることが可能です。
また銀行口座の開設がむずかしい外国労働者などへの給与の支払い方法として、選択肢が広がります。
さらに会社などの雇用主は、銀行口座への振り込みよりも手数料が安くすみ、振込手数料の削減につながる可能性があります。また、週に1回など細かい設計の振込みもしやすくなります。
一方、デジタル給与払いには、次のようなデメリットも考えられます。
たとえば、デジタル給与払いを導入しても、給与の全部をデジタル給与で受け取りたいと思う労働者は少ないでしょう。従来どおりの銀行口座振込とデジタル給与払いの両方が認められれば、雇用主側の運用が二重になり、企業のシステム対応の負担が大きくなります。
また給与のデジタル払いにおいては、アカウントの保護を10年としています。しかし、銀行口座と違い、○○銀行○○支店の口座という概念がありません。はじめての試みだけに、デジタル払いでは個人のキー情報の正当性をどう担保するのかという問題が生じます。
銀行口座振込とデジタル払いのメリット・デメリット
デジタル給与払いの課題
デジタル給与払いが行われれば、毎月一定額が口座に入金されることになります。この場合に100万円までの入金には何の問題もありませんが、100万円の枠をはみ出すことも予想されます。かつてPayPayでは、100万円を超える残高が問題になったことがあります。このように受け入れの上限を超えるような場合には、受取り方法として回避先の銀行口座をあらかじめ設定しておくことが必要になります。銀行口座を紐づけするのであれば、わざわざデジタル給与払いにする必要性に疑問を感じます。
デジタル給与払いでは、資金の保全、不正引き出しの補償、換金性など、できるだけ銀行の制度と同程度の仕組みになるように検討されています。しかし、1階部分が金融庁、2階部分が厚生労働省と別れており、どのように連携するのか、監督指導について不明確な部分も残されています。
この記事は2022年の9月に書いていますが、半年先の解禁なのに決まっていないことが多くあります。これからの準備期間のうちに新しい枠組みが整うでしょう。デジタル給与払い解禁までは、情報収集をこまめに行っていくように心がけましょう。