はじめに

百貨店の販売が好調です。日本百貨店協会が発表した9月の全国百貨店売上高は4,351億円(全店ベース)で、既存店(開業から1年以上が経過した店舗)の販売は前年同月に比べて4.4%増加しました。

コンビニが4ヵ月連続、スーパーも2ヵ月連続で前年同月の売上高を下回る中、唯一健闘した感のある百貨店。このところ、コンビニや専門店に客を奪われて衰退しているイメージもありましたが、再び元気を取り戻しつつあります。何が百貨店の復活を支えているのでしょうか。


免税売上高は前年比9割増

J.フロント・リテイリングが今年4月に開業した「GINZA SIX」。松坂屋銀座店の跡地に建ったこの商業施設は、開業から半年が経った今も、大勢のお客さんでごった返しています。その賑わいを牽引しているのが外国人観光客です。

実は、百貨店の復活に大きく貢献したのも彼らでした。9月の免税売上高(外国人の買い物額)は約232億円と、前年同月に比べて86.4%も増えています。

外国人観光客による日本国内での消費行動を「インバウンド消費」と呼びます。昨年は訪日外国人の買い物額が大きく減少し、「インバウンド・バブルが崩壊した」と言われました。ところが、今年に入ってインバウンド消費は急回復しているのです。

日本を訪れる外国人観光客の数は、そんなに急に減ったり増えたりしているのでしょうか。統計を見ると、意外なことがわかります。下図からもわかるように、訪日外国人観光客の数は毎年、安定的に増え続けているのです。

2015年までは、こうした訪日客の増加に伴ってインバウンド消費も増加していました。それにつれて、日本全体の消費においても重要なウエートを占めるようになりました。特に、中国人観光客による「爆買い」がインバウンド消費の拡大を牽引していました。

ところが、2016年に入ると、その勢いは急速に衰えます。中国人観光客による爆買いが激減したことが足を引っ張ったのです。為替市場で円高・人民元安が進み、爆買いのメリットが小さくなった影響もありました。ただ、それ以上にインパクトが大きかったのが2016年4月に中国政府が実施した関税強化です。

中国政府は、中国人観光客による日本での爆買いによって、本来なら中国国内で消費されていた需要が海外に流出していると考えました。そこで爆買いを封じるために、海外で購入した商品を中国に持ち込む際にかかる関税の率を大幅に引き上げました。その後、中国人による日本での爆買いは鳴りをひそめました。

「お土産需要」で消費が復活

2015年までの中国人観光客による爆買いには、明らかに個人用の土産を超えた買い物が含まれていました。高級炊飯器をまとめて20個も買っていく観光客もいました。これは土産ではなく、商業目的の個人輸入であったと考えられます。中国国内で高く転売し、利益を得ていたわけです。

こうしたインバウンド・バブルは、中国政府の関税引き上げによって、完全に封じられました。日本での中国人の買い物が激減した結果、2016年はインバウンド・バブルが崩壊してしまったのです。

日本のインバウンド関連企業(百貨店、家電量販店、免税店など)は2015年まで株価が大きく上昇していましたが、2016年に入って軒並み急落しました。爆買いの恩恵を受けていたインバウンド関連株にもバブル崩壊の影響が及んだ格好です。

では、なぜ今、インバウンド消費が復活しているのでしょうか。外国人観光客の数が伸び続ける中で、自分のために買う「お土産需要」が増えているためと考えられます。かつてのバブルとは買い物の傾向が変わってきています。

日本製品の安全性への信頼が高いことから、自分の体に取り込むものがよく売れるようになりました。実際、化粧品や食料品、医薬品などの売れ行きが好調です。

モノばかりではなく、日本での体験にもお金をかけるようになりました。「コト消費」といわれるものです。冒頭でご紹介した「GINZA SIX」は、さまざまな体験ができるコト消費を取り込んだことが成功の要因といわれています。

銀座や新宿など、日本を代表する商業地に大勢の外国人観光客が押し寄せ、買い物しにくくなったという不満の声も少なからず耳にします。確かに、そうした側面もあるでしょう。ただ一方で、GINZA SIXには日本人の買い物客も多く訪れています。外国人の富裕層を意識した店づくりが日本人にとっても使い勝手がよかったため、受け入れられているのだとみられます。

異文化がぶつかり合うとき、最初は衝突が付き物です。中国人のインバウンド消費も、騒々しかった「爆買い」から「お土産需要」へとシフトし、日本企業の店づくりや日本人の消費行動にもプラスの影響を与え始めているようです。

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